新酒鑑評会アウトだそうです

酒造りも佳境でございまして、なかなか更新ができませんで、申し訳
ありません—-。

全国新酒鑑評会に出品予定のお酒のことでもアップしようと思っていたのですが、
今年は箸にも棒にもかからない悲惨な出来になりそうで、まったく書けませんでした。

もとから、うちは6号酵母でしか酒を造らないので、
いわゆる華やかなコンテスト向きの香りとはまったく無縁仏。
始めから、賞にはほど遠い存在なのですが、今年は輪をかけてダメな感じですね。
アウトだそうです。


というのも、理由があるのでした。
今年は、造り始めから、市販酒のアルコール分を低く搾るぞということで、徹底的に低温発酵をする作戦で酒造りをはじめたのでした。

そうしたら、アルコールも下がってしまったと同時に、酸もどーんと下がってしまいました。
というのも、アルコールも酸も、同じく、酵母が糖分を代謝して出すものなんですよね。

詳しく言うと、酵母が増殖するときには、酸素呼吸が行われます。
その過程で、糖分の一部分が、いろいろな有機酸に変換されます。

それから後—–酵母がある程度増えてきて、かつ酸素の少ない状態になると、
酵母は、嫌気呼吸つまり「アルコール発酵」を本格的に始めます。
このとき、糖分の一部分がアルコール(エチルアルコール=エタノール)になるんですね。

ということで、低温発酵で、酵母の活動を抑えてアルコールを出さないように心がけていたら、
酸も、例年よりも、出なくなってしまったんですね。
当たり前ですよね。

でも、これは当蔵にとってはちょっとまずいことでした。
6号酵母という酵母は、シングルナンバー(きょうかい6、7、9号)の中では
酸が一番低い酵母です。
いわゆる「香り系の酵母」よりは酸を出しますけども、まあ落ち着いたほうです。
*「香り系酵母」は、特殊な代謝経路を持っていて、生酸能力が低いものが多いのです。

私は(&当蔵の蔵人はきっと全員)、ある程度、酒にピリっとした酸味がないと、
つまらないと感じる方です。
くっきりした構造の酒を好むので、しっかりした酸味を求めるほうと言えるでしょう。

このため我々は、6号酵母を使用し、さらに酸が低くなりがちな吟醸造りを踏襲しながらも、
ある程度の酸を出すために、いろいろと勉強をしました—-。

最終的に昨年までどうしていたかというと、米をよく溶かして、
もろみに、非常に糖分(グルコース=ブドウ糖)が多い状態にしておき、
このようないわゆる「濃糖」のストレス下で、もろみ期間の前半、つまり酵母増殖中に、
温度を一旦高く取ることにしていました。
そうすると、張りのある酸がぽんと出るんですね。

しかし今年は、終始、低温発酵を続けなくてはならず、こういう温度操作が、
できなくなってしまったわけです。

結局、例年1.8くらいの酸度のところ、序盤の酒は、精米歩合70%ほどの酒ですら、
1.5程度とかなり酸が少ない(あくまでも当蔵にとっては、です)酒が頻出してしまいました。
それはそれでまろやかで飲みやすくて良かったのですが、やはりもう少しメリハリある
構造にしなくてはということで、極端な低温発酵を継続したまま、
もうちょい酸を出そうといろいろとトライをしました。

結局、泡あり酵母を使用すると酸が高くなるとか、三段仕込の一番始めの添仕込みの温度を
上げると酸が爆発的に出るとか、ほかにもいろいろと新しい知見を手に入れる事ができまして、
今は、泡あり6号ブレンド、添えから仲までを2日以上とる、あとは後半の温度経過を
変えるなどなど、ここ2ヶ月くらいで突貫工事で、手順を組み替えていました。

そんな最中に、鑑評会出品酒を仕込んでおりましたら、
酸が絶対に高くはなってはいけないコンテスト用の酒まで、あおりを食って、
無駄に酸が高くなってしまいました—–。

一般的には、全国新酒鑑評会の酒は、醸造用アルコールを加えた「大吟醸」です。
純米ではないので、酸度は低くなりますね。
30%濃度の醸造用アルコールを添加するため、アルコール分は高くなりますが、
ほかのすべての成分は薄まってしまうのですね。
例えば、酸度が1.5でも、アル添後は、1.3くらいになるでしょう。

全国新酒鑑評会で、「金賞」を狙うストライクゾーンというものがあります。
ここ3~4年の成績上位の酒の平均値から見た、金賞が取りやすい成分ポイントとは、
確か—-

酸度は1.0~1.2
酒度は+1~+3
グルコース(ブドウ糖)濃度は2.2~2.8%
アルコール度数は17.4~17.8%
アミノ酸は0.8~1.0

とかそういう値だったような。

中でも、酸は低い程、有利です。
審査員はちょっとでも酸っぱいと、「酸浮く」と判断し、ペケをつけます。

なぜでしょうか?
日本酒というのは、常に、乳酸菌や野生酵母など、雑菌との戦いの中で造られるものです。
ですから「酸っぱい酒」というのは、昔から、雑菌汚染を連想させるものだったわけです。

逆に、酸が低いということは、雑菌汚染がなく、技術が高く、蔵が衛生的であることを示す
指標でもあったはずです。

また、磨かない米ほど、酵母の栄養が多く、酵母が増えてしまって酸も高くなります。
酸が低いのは、よく米を磨いている印でもあります。

ということで、酸が低いことこそが、「吟醸」の前提というイメージは
今でも強く残っています。


ただし最近は、雑菌汚染で出るようなエグイ酸ではなく、
酵母が出すさっぱりした酸味を強調した酒も多く見られるようになってきて、
市販酒レベルでは、酸味のある酒も、ようやく認知されてきたようです。

しかし、まだまだ製造側には、酸が高い酒は敬遠される向きがあるようで、
特に、コンテストの審査のような、あら探しとも言えなくもない
厳しい評価の場では、まっさきに攻撃対象になってしまう傾向があります。

まあ、何はともあれ。
結論から言うと、今回、出品してみようかなあ—–と造った酒は、現在、酸度が1.75。
勢い余って出過ぎてしまいました。

まわりの出品酒が、一般的な大吟醸で、酸度がのきなみ1.2~3などという中、
あえて純米で勝負するためには、何が何でも、可能な限り、酸度は低く抑えなくては
なりませんでした。

しかし。
一月にかけて、長らく風邪をこじらせたのもあります。38歳。いいかげん年なのもあります。
おっと、気づいてみたら、隣の仕込みタンクの市販用純米大吟醸と大差ないような操作をしてしまってました。わけわかんなくなってたんでしょうか。
酸を上げてしまうようなことを、うっかり、しかも何度もやってたり—–

「あー、それはかなりキツいね。酸は1.5とかで、もうアウトだからね♡」(by 小林 忠彦「ゆきの美人」蔵元/秋田県酒造組合 技術委員長)とのことです。







私の酒造技術の師匠である小林さん曰く—-
アウトだそうです。




いや。しかし。
まっとうに考えれば、市販酒としては、まさに最高の待ち望んだ酸度。
売り物としては、かなり素晴らしい出来になるでしょう—–。

とても複雑な気持ちではありますが、いちおうコンテストのために
仕込んだものですから、「袋吊り」はしてみますよ。いちおう。

まあ、香りは低いし、はじめから期待はしてなかったんですがね。
去年は、副杜氏が銀賞まで食らいついたので、今年はどうかな~~なんて思ってたんですが—-














アウトだそうです。
すみません—-。


でも、あきらめずに最後までがんばります—-

ちなみに、小林さんの「ゆきの美人」は今年から全量純米酒製造の蔵になりました。
(といっても昨年までも出品酒のみが大吟醸だったので、99.9%純米蔵だったわけですが)
ということで、小林 技術委員長も、純米で新酒鑑評会に挑むわけです。
酸度はいくつなんですか、そちらは?


ほか、同じくNEXT5のメンツでは、純米蔵「白瀑」が当然、純米で出品。

「春霞」も昨年同様、漢らしくも、純米で出品。なんと、今年は、
共同醸造酒”Echo”で使用した「亀山酵母」で出品酒を造っているという噂が!!

なんでもいいけど、みんな酸度には気をつけてくださいね~~。