酵母無添加の生酛ができるでしょうか LAST

今年は、まったくブログが書けませんで、残念至極です。
ここ1年間くらい、なかなかブログを書く時間が
とれてませんね。申し訳ありません。

虚弱な私は、今季は、体力の限界を超えて飲み過ぎました。
5月から6月にかけて、2週間ほど酒を飲む機会が連続したあたりで、
体調は最悪になりまして……。
連続飲酒の最後のあたりには、たいした量も飲んでいないのに、
翌日、酷い二日酔い。全身が痛み、まったくやる気がでなくなるという有様……。
とはいえ、病院に行く時間すらとれません。

私のような体質の酒飲みは、本来、要注意です。
ご存知の方も多いと思いますが、アルコールは体内で、2段階を経て無害化されます。

アルコール

アセトアルデヒド(悪酔い成分)

酢酸

です。

私の場合、一段階目のアルコールを分解する酵素はあるが、
二段階目のアセトアルデヒドを酢酸まで分解する酵素が少ないという、
典型的な日本人体質です。

アセトアルデヒドは、相当、体に悪い成分です!!
これはみなさん超危険物質なので、二日酔いになるのは絶対に避けてほしいと思います。
(などといいながら、私もそれが守れていなかったわけなのですが……)

ちなみに、
アルコールを分解する酵素以上に、アセトアルデヒドを分解する酵素が強ければいいなあ………
と思ったりもしますが、
そういう人は、アルコールでハッピーな体験しかしないので、無制限に飲み過ぎてアル中になります。私の大好きな映画「リービング・ラスベガス」状態になります。

実際、アメリカ人はアル中だらけといっても過言ではないのでは?
今現在でも、アル中更生施設がうんざりするほどにあります。
美味しい日本酒がこれ以上アメリカに輸出されたら大変なことになるような気がします。

ところで、日本では、そんなにアル中はいないですよね。
日本人は、アセトアルデヒド分解酵素が少ない人が大半なので、
連続飲酒が不可能な傾向があり、ひいては際限なく酒を飲むことができないので
アル中が少ないような気がします。
逆にいうと、アル中になる前に、どっか臓器を壊したりするわけなんですが………

それはまずい!!!
さすがに造り手が酒のせいで体を壊したらまずいので、
8月末頃から、断酒をはじめて、体力回復モードに生活を切り替えました。

おかげさまでやっと休みらしきものが取れたので、
先日、満を持して、やっと腎臓やら肝臓やら、臓器関係を調べてもらいましたが……
大丈夫でした。ありがとうございます。

とにかく、一番恐れていた肝臓の数値が変わってなかったので、ほっとしました。
酒飲みの方には重要な指標である GPT、GOTともに20。
安全圏です。


ちなみにこのGOT、GPTは、酒造りにも関係する酵素です。細菌から、あらゆる動物の臓器細胞など、みんな持ってる「アミノ酸を作る」酵素なんですね。

GPTは、グルタミン酸ピルビン酸トランスアミラーゼという酵素で、
ブドウ糖がちょっと変化した「ピルビン酸」という物質と、グルタミン酸というアミノ酸を
くっつけてアラニンというアミノ酸に、さらに変換してしまう酵素です。
アラニンは、甘くておいしいアミノ酸で、日本酒には相当多く含まれています。

GOTは、グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼという酵素です。
同じようにアミノ酸を、肝臓の中で造ってくれる酵素です。

アルコールを飲み過ぎて、肝臓がぶっこわれてくると、こういう肝臓の中にあるはずの酵素が、血の中に漏れて出てきてしまうので、血液検査でわかってしまう。
これが肝臓の健康数値の指標となるわけです。


日本酒造りにおいても、同じようなことが起こります。
もろみのアルコール度数が高くなると、酵素の働きで、ピルビン酸という酸が、どんどん減少し、アミノ酸に変化してゆきます。しまいに、酵母の体が壊れて、タンパク質やらアミノ酸そのものがぐちゃぐちゃ出てきて、本格的に酒のアミノ酸が多くなってきます(自己消化)。これでは、飲み物というより、どんどん調味料のようになってゆきます。重くて、ごつくて飲みにくくなります。
ですから、アミノ酸の数値を指標に、酵母が痛みすぎないうちに搾らなくてはなりません。


私なんかは、自分の血液検査の表を見ると、なんだか酒造りの分析数値を見ているような
気になります。肝臓がダメージをくらいすぎれば、酵母よろしく肝臓も自己消化を起こしてしまいます。そうなる前に、すみやかに断酒しなくてはならないのですね。

もろみ期間が長いと、酵母もへばりやすい。ちょっとアルコール度数が高くなるだけで
もろみでバタバタ死んでゆきます。

私もしかり。やはり年です。
なんといっても、あと3ヶ月で40になります。
前厄です。
本格的に酒が弱くなっています。

考えてみれば、30歳で日本酒に目覚めて、32歳で蔵に帰ってまいりましたが、
いつのまに、こんなに経ったのかと愕然としております。
来年は本厄なので、出張等はほぼ控えさせていただき、肝臓をいたわりながら、
家に閉じこもって、初心に帰ってブログばかり書いていたいと思う次第です。




それはさておき………、
しつこく生酛の話ですが、まとめます!!!

予想以上に生酛がうまくいき、野生酵母の淘汰ができたのですが、
その後、酵母が自然に入ってきて湧いたりしそうにないことがわかりました。
そこで、酵母を立ち上げるため、できたてほやほやの麹を追加で振りかけたところ、
見事、麹についていた酵母(まず間違いなく蔵中の空気に漂ってる6号酵母)が
立ち上がりました。
こうして、無事、培養酵母を投入せずとも、(当初の目論見とは同じくはなりません
でしたが)自然な成り行きで、酵母無添加の生酛ができたのでした。
万歳!



まとめです。

今回、この貴重な体験でわかりましたことは、昔(江戸時代)は、
良くも悪くも、常に、酵母などの微生物のに汚染する機会が多い環境であったので、
「酵母無添加」も可能だったのだなあ……ということです。

江戸時代は、木材の道具しかありません。
使い込んでくると乳酸菌やら酵母やらいろいろな菌が棲み着きます。
こういう木材の道具で、酒母を仕込んだり、櫂入れしたり、暖気を入れたりしているわけですから、常に、微生物のコンタミ(汚染)が起こっていたと考えられます。

それに、昔は、殺菌用の熱湯も豊富になかったでしょう。米を蒸した釜の熱湯くらいしか
使えなかったともいいます。そうしたら酒造用具の熱湯殺菌の機会も限られています。
現在のように、いつも好きな時に大量の湯を使って……というわけにいかないのだから、
衛生度のほども知れています。

ということで、一旦、酒母の中で乳酸菌以外の生命体が絶滅しても、常に酵母が供給されるため、
(亜硝酸反応消滅後には)また、すみやかに酵母が増殖することができたのでしょう。


さて。
現代では、衛生環境が高いので、酵母添加しない生酛は、湧きにくいでしょう。

私も、これから酵母無添加でやる場合は、考えなくてはなりません。
今回のように、手順だけ真似ても、うまくいかないのです。

酒母タンクまで木製にする、暖気樽を木製にするなど、
環境全体を、江戸時代に持ってゆくことが要請されているのかもしれません………。
うーん、実にいいですね。


また同時に、そろそろ、生酛そのもののあり方に関しても、
見方を改める必要があるような気がします。

培養酵母を添加して造る一般的な生酛系酒母についてのおさらいですが、
野生酵母の完全滅菌が達成された上での酵母添加になりますから、
これは、当然、速醸酒母や高温糖化酒母よりも酵母純度が高い酒母になります。
生酛(山廃)は、もっとも優れた酒母なのです。

ですから、一般的に生酛系の酒にまつわる誤解は、見当違いも甚だしいのです。

生酛系の酒は「独特のクセがある」ようなイメージが広まっているような気がいたしますが、
あれはまったくの誤解です。

クセがあるのは、単にその酒が(悪い方向に)老ねているか、
あるいは、香味を害するバクテリアなどの侵入を許してしまった失敗作だからに過ぎません。

きちんと造られた生酛系酒母には、一切、不快なクセなどはありません。
それは、もっとも衛生的な酒母なのですから。

では、なぜ、生酛・山廃の酒に、「くどい」「重い」などのネガティブなイメージが着いたのか?

かつて、「昔ながらの酒」として、一旦途絶えた生酛・山廃系酒母の酒を復活させる際、
わかりやすくするため、熟成した味わいで提案したから………かもしれません。
でもそれはマーケティングであって、生酛の本質とは違った印象操作でしかありません。

完璧な生酛や山廃には、目に見えるクセ等はないということを強調して、
この続き物を終えることにしたいと思います。

ありがとうございました。