今年も、全国新酒鑑評会が行われました。

ご報告ですが、今年も金賞をいただくことができました。昨年も生酛系酒母、純米での出品で金賞をいただきましたが、今年は、現在当蔵が全量それに移行した古典的生酛で受賞できました。私は生米麹で頭がいっぱいで、こうしたコンテスト酒はほぼノータッチです。昨年同様、製造部長の古関以下、蔵人が協力して造りあげました。とはいえ、ほかのすべての酒と同様に淡々と製造した酒です。我々の普段のあり方を認めていただいたような気がして、そこがありがたいと思っています。

しかし、(山廃を含む)生酛系酒母での出品は、かなり珍しく、ほぼゼロに近いような状況でしょう。金賞は、私が知るところは山形の「初孫」さんとうちだけだと思いますが、そもそも、まあこの2軒しか生酛系酒母で出品はしていないような気がします。(間違ってたらゴメンなさい)

 

 

酒類総合研究所の入賞酒一覧↓

http://www.nrib.go.jp/kan/h27by/h27bymoku_top.htm

 

しかし生酛でもきちんと金賞は取れるということです。というよりも、ノーミスで造られた完全な生酛が、その簡易バージョンでしかない速醸に劣る部分は一切ないので、当然であると考えています。同業者さまにもお客様にも、これを機に、蔓延している生酛についての誤解を少しでも解いていただければありがたいと思います。

私が日本酒に興味を持った10年前は、日本酒そのものがひどい誤解を受けていました。罰ゲームのような酒と思われていたのです。実際のところ、いかなるジャンルの製品もそうであるように、品質にピンキリがあるだけなのです。たしかに、褒められないような造りの酒も多いのですが、中にはとびきりのピン—–飲み手の人生を変えてしまうような酒もあったのです。現在は、多くの業界関係者と熱烈なファンの方たちの尽力でそうした誤解も解けてきたのかなと思います。

ところが、現在、生酛は引き続き、それに似たような誤解を受けています。蔵に帰ったときに日本酒の誤解を解くことをライフワークにしようと思いましたが、今は、いつの間にか、生酛への誤解を解くことがライフワークになっているような気がします——-。

さてそれはさておき。今年は、秋田県が頑張りました。「白瀑」の山本氏なんかは、純米・秋田県産米・6号酵母(!)で金賞を獲られました。6号で初めて出品していきなり金。あの魅力的だが基本はたいへん地味な酵母——ガンダムで言えば、旧ザクのような酵母で。まさに度肝を抜かれました。(来年は生酛系酒母でやってくれないでしょうかね)

 

さてさて。今年の新酒鑑評会の総論となりますが、金賞の数は、またもや福島が最多です。秋田は実動蔵数が少ないので金賞数となると望めませんね。次に、金賞受賞率となると宮城がダントツ。秋田もかなり上位です。

しかし!! 秋田の場合は、純米での出品が多い。しかも、県産米での出品が多い! つまり山田錦を使わないで、秋田県産の米で戦う蔵の比率が大変高いのです。

秋田県の酒蔵には、全国に名だたる農業県の一員であるというプライドが再び胸に蘇ってきたようです。あえて不利な条件である純米で、しかも秋田県産米で戦う蔵が増えてきているということ、これは単に秋田の酒造業界にとって喜ばしい傾向であるだけでなく、秋田県の産業全体にとって喜ばしいことです。なんといっても秋田の日本酒は、秋田の農産加工品においてトップの産業なのですから!

以下に秋田の成績を掲載します。

 

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これを見て、それほど純米、県産米が多くはないじゃないか? と思われるかもしれませんが、これでも超抜群に多いのです。新酒鑑評会の出品酒は、ほとんどが純米大吟醸ではなく、単なる大吟醸(アル添したほうがキレイになりやすいからです)。またほぼすべて山田錦を使って醸された酒ばかりです。

そこらへんも関係しているのではないかなと思いますが、正直、新酒鑑評会は、もはや市場への影響力は乏しくなってしまいました——。金を獲ったから、その年その蔵の酒が売れるとか、そんなことはないのが現状です。

ですから、今、その存在意義が問われているのでしょう。

規模も製法も方向性も違う蔵の酒を一律の基準で審査するのは、今となってはちょっと無理になってきているのかもしれません。だいたい現状、コンテストで評価の良い酒は「リンゴ様の香り(カプロン酸エチル)がかなり高くて、ひたすら甘い」ものです。しかし通常こうした酒を造っていない蔵にとっては、売り上げに関係ないなら、むしろ出品しないと選択肢だってあるわけです。そうなると年々、出品数も減って行きます。

そうなるとこの100年以上の歴史を持つ新酒鑑評会は、さらに退潮してしまうに違いありません。

私は「それではもったいない」と思います。

ということでアンビバレントな心境を抱えながら出品している多くの蔵元さんや、造り手さんのため、私の提案としては、おもねるのが嫌でやめるぐらいだったら、思い切り好き勝手な酒を造って出品したらどうか? ということです。

つまるところ、今までの作り手同士の閉鎖的環境における規定演技の競争から、今後、清酒鑑評会を蔵のポリシーの表現の場へととらえてはいかがでしょう?(まあ、我々の蔵もここ数年そうやってるのですが)

今年はパンフレットに、「純米かどうか」、「山田錦かどうか」という点がわかる備考欄がつきました。これは素晴らしいことと思います。

また、これらの結果は、考えようによっては、単に業界の中で完結するものではない点にも注目したいものです。一般のお客様も、池袋サンシャインで開かれる「日本酒フェア」の公開利き酒会で実際に体験できるからです。(銀賞以上でしか並ばないのが残念なところですが—-)。

お客様はよーく見ていると思います。今の市場の動向を考えてみても、単にアル添で金をとるよりも、「純米でとってこそ」ではないかと思います。またいつも市販酒で使っている米や、地元の米で出品していることにも、きっと高く評価してくれるでしょう。

そういう意味では、お客様におかれましては、日本酒フェアでは、金だろうが銀だろうが選外だろうが、その蔵があるいはその地方が、どんな思いで賞に挑んだのか? というあたりを想像してこの新酒鑑評会の結果を見てくださればいいなと祈っています。

ある蔵が今年金をとったとか、ある地方が金賞が多いとか、受賞率が高いとかそういったことも誇るべきことで、良い話題です。しかし、もっと深い意味で、秋田はよく頑張ったと思います。