毎年、12月の中旬になると、(おそらくどの蔵でも)「出品酒」のことが頭をよぎります。
「出品酒」とは、5月に広島で開催される「全国新酒鑑評会」というコンクールに出す酒のことです。
フツー、99.9%の蔵は、「大吟醸」で出します。「純米」がついてない、アルコール添加の
「大吟醸」ですね。すっきりしたほうが賞を穫りやすいので、みなアル添するわけです。
この新酒鑑評会では、1/4が金賞をいただき、1/4が入賞、半分が落ちます。
まあ、半分がなんかの賞をもらえるわけですね。楽勝です。
—-昨年、当蔵、落ちましたけれども—–
それはさておき、だいたい賞を穫りやすい酒というモデルがあって、それを目指して造るわけです。
酵母は、香気成分を大量に生み出すように、現代科学で改造されたバイオ酵母でなくてはいけません。
米から作った日本酒から、なぜかリンゴの蜜のような甘~い「匂い」
(香りではなくもはや「匂い」と表現させてください)がどかーん、と出ます。
そうすると「香り華やか」といって評価されるわけです。
次に、この甘~い匂いにぴったりの、甘~い成分であるグルコース(ブドウ糖)が大量に必要です。
これは、グルコ菌と呼ばれる、これまたグルコースを大量生産する力をもった麹菌を使用します。
グルコ菌を使わないのだったら、もろみの中でグルコースを造ってくれる「酵素剤」を
使用して、グルコース濃度を高めるわけです。
甘ーい酒の利点は、苦みや渋みや雑味を隠してくれること、リンゴ様の香りにマッチすること、
ごくんと飲まない利き酒では、「ふくらみがある」と評価されやすいこと、などなどです。
こうして、甘ーい香りの、甘ーい酒が、全国の蔵元からクール便で広島に集結し、
おそらく一般消費者には、どうでもいいような些細な違いを死にものぐるいで競い合う訳です。
ということで、まあ賛否両論ある「新酒鑑評会」ですが、最近は、
香り偏重の傾向が薄れてきたり、味わいの評価も多様化してきたり、
また、山田錦でない米で造った酒にも、正統な評価を与えようとする動きがあったり、
徐々に改善もしてきています。
当蔵も毎年出しておりますが、春の鑑評会は、一種の技術訓練と考えて、参加してます。
さすがに、半端な造りでは、入賞以上になる酒はできません。
毎年この季節に、コンテスト用のお酒を、気合い入れて造るのは、気が引き締まるものです。
市販酒の造りにも、きっと良い影響を与えてくれることは間違いありません。
ただし、あくまでも市販酒の品質向上のために行うのですから、
当蔵は、6号酵母、そして純米で、このコンテストも戦わなくてはと思っています。
はっきり言って、まともに考えたら、無理です。
香りぷんぷん、甘くてスッキリ、リキュールみたいな
バイオ酵母のアル添酒には、設計上、かなわないことはわかってます。
(当蔵保有の六号酵母にも、香り華やかなものがありますので、
ちびっと混ぜて使わないことには、勝率ゼロです)
まあ、どうせ無理なので、今年は技術訓練の意味合いを強めて、
みなで、出来を競争しながら造ることにしました。
当社の製造部員、8人を4つのチームに分けて、それぞれが出品酒を造ります。
仕込みサイズはちっちゃいタンク一本、400キロ総米!
1 マッスルチーム =麹米:山田錦35%/掛米:雄町40%
鈴木隆(杜氏)36歳
×
津川正隆(酒母担当 ex.獺祭~九州菊) 30歳
2 新屋チーム =麹米:山田錦35%/掛米:美郷錦40%
森川英貴(麹担当 ex.英雄) 33歳
×
伊勢俊介(上槽/濾過担当) 31歳
3 スキンヘッドチーム =麹米:山田錦35%/掛米:酒こまち40%
古関弘(原料処理担当 ex.三笑楽~福乃友) 34歳
×
津田雅晴(精米担当 ex.獺祭~貴)35歳
4 ??チーム(チーム名は変更中) =麹掛米ともに酒こまち40%
佐藤祐輔(もろみ担当 = 筆者) 34歳
×
三野健太(分析担当) 35歳
春の鑑評会、あとは秋の秋田県品評会と東北鑑評会の3つは、これらのチームで
造られた純米大吟醸から、選ぶことになると思います。
どのチームの酒がどういう評価を下されるのでしょうか?
造り手のプロフィールと、造りの様子を追ってご報告します。ではまた。