ここのところ、県立大学との共同開発酒絡みで学生さんたちと飲んだり、
蔵開きのあとの懇親会でお酒を飲んだりと、飲酒機会がかなり増えてます。
家の冷蔵庫の中にも、県外酒がいくつも詰め込まれていますので、
外でもあれこれ酒を飲む機会があったここ4~5日では、
県内外の酒を30種類くらい利き酒していると思います。
どちらかというと、私はコレクター的にさまざまな酒をちょっとづつ利き酒するのが
好きなタイプです。
私は31歳まで、いまの酒造業とはまったく関係のない仕事についていまして、
日本酒は遅咲きです(それで、ミーハーなところがあるんでしょう)
たまたま同業者の先輩に連れられて伊豆に行ったおり、宿泊施設内のカラオケ店で「磯自慢」を
飲んだところ、そのあまりの旨さに驚き、それから日本酒にハマったという経緯があります。
それからは、通販やら、地酒専門店に足を運んだりして、可能な限り評判の日本酒を買い漁りました。
地酒を飲ませる居酒屋も近所に発見し、足しげく通っていました。
荻窪駅前には、「いちべえ」という居酒屋があって、いろいろな日本酒が置いてあります。
「醸し人九平次」「十四代」「黒龍」「梵」「獺祭」「雨後の月」「賀茂金秀」などなど。
ここで、いわゆる有名どころの地酒をいろいろと勉強させてもらいました。
今から4年前でしたか、確か、3回目に「いちべえ」に行った時だったかと思いますが、
店主が「ちょうど秋田の関係者が来ている」というので挨拶させていただいたのが、
「一白水成」の蔵元の渡邉康衛くん、そして「たてのい」の小柳秀雄くんでした。
そのころは、まだ酒の名前も勉強中で、酒の知識もゼロでしたので、
蔵元さんを向こうにして、自分の無知が恥ずかしいばかり。
こんな若い者が蔵元として頑張っているんだなあ、こんなところまで営業に来ているんだなあ、
と、いたく感心したことを覚えています。
この後、さらに酒に興味がわき、
実家が造り酒屋である特権を生かし、試しに酒造りをかじってみようかなと、
北区・王子にある滝野川の醸造試験場に、受講を申し込んだわけでした。
それから、滝野川と広島・西条の醸造試験場の醸造講座を連続して受講、そのまま研究生として
1年以上を広島で過ごし、蔵に戻って2年と半分が過ぎようとしています。
酒造りも昔よりは詳しくなりました。たくさんの酒を利き酒しました。
というわけで、ここ4~5日も酒を飲む機会が多かったのですが、
最近、一番おいしかったのは?
それが、私にとっても衝撃だったのですが、おととい飲んだ「たてのい」の19By純米でした。
(たまたま、ある店のおかみさんが、内緒で飲ませてくれたお酒です)
秋田最強銘柄の一つ、秋田の本格地酒の先駆者であった「たてのい」が、
前触れもなく廃業したのは、08年の夏頃。未だにその真相はわかりません。
しかし、造られて2年も経っているこの酒は、
ここ最近飲んだ日本中の酒のどれをも上回っている。
ラベルを見る限り、以前、まったく同じ酒を確かに飲んでいるはずなのですが、
ありえないほど味が向上している!
コクが深まって、特徴的な酸味と完璧なバランスを保っているが、いっさい、崩れる兆候は
なく、むしろ、まだまだ完成度は高まるかのようです。
昨今は、やたら香りが強く、濃くて甘くて、わかりやすくて良いけれど、
半面、あまり日持ちがしそうにない酒が多い中、
この酒は、新酒時代もメリハリのきいた良好な酒質ながら、さらに2年かけて、
今もなお、じわじわと味わいを増してゆく。
蔵そのものが、すでに存在していないにもかかわらず。
造り手である蔵元の行方ですら定かではないのにかかわらず。
あまりに、哀しい、惜しいことです。
日本でも最高の酒を造る蔵が、
よりよって、この秋田から失われてしまったということが、今さら、骨身に沁みました。
これ以上、蔵が減るわけにはいきません。
そのためにも、良質な日本酒が評価されるようにしなくては、と思います。
蔵元皆で、助け合いながら。