改良信交

改良信交というお米について、いったいどういう米? という質問をよくいただきます。
私は、この米を相当気に入っていて、ばりばり契約栽培を拡大したいのですが、
栽培できる手腕を持った方が少なく、難儀している次第です。

なにぶん、背の高い稲なのですが、
わざわざ原種に近い種子をいただいて栽培しているので、かなり背丈が伸びるタイプで、
収穫が相当難しいのです。
ただ、難しいからこそ、いい米ができます。
肥料を与えすぎると、すぐぶったおれるから、肥料を与えることができない。
ひいては、必要最低限の肥料でスリムに育てるから、いい米になるのです。

と、話がずれましたが、
改良信交というのは、どういう米か?

名前がかっこいいんですが、意味がわかりにくいですね。字義通りにとらえると、
どうやら、「信交」という米を「改良」したのもののようです。
そう、この米は「信交190号」という米を、「改良」したものなのです。

「信交190号」というのは、「亀ノ尾」を父系統、母系統、どちらにも持っている、
「亀ノ尾」の血の色が濃い品種です。別名を「たかね錦」。
 未だに新潟では人気があって、よく使われる米です。

先日、お蔵を見学に行った「越の誉」さんでも、盛んに使っていて、印象的でした。
新潟といえば「五百万石」ですが、「たかね錦」は、同じようなスッキリな印象ながら、
ふくらみや、やわらかさを兼ね備えているようで、人気なのでしょう。
このたかね錦、ずーっと昔は、
五百万石と並んで新潟清酒を支える二大柱でしたが、ごたぶんに漏れず、
育てにくいので、一時期は廃れてしまいました。

とはいえ、少量多品種の時代、いままた作付けは増えているようです。
「麒麟山」「想天坊」さんなんかもよくお使いのようで、滋賀ですが「不老泉」さんもこれで
山廃を造っていますし、この特徴的な味わいを好む蔵も多いようです。


(ちなみに新潟の淡麗辛口を支えた「五百万石」という米について。
「五百万石」は、「たかね錦」とまったく同じ流れの亀ノ尾を主体とした系統に、
「雄町」がベースの系統が交配されて産まれたものです。
「たかね錦」とは親戚とも言えます。私はこの「五百万石」も大好きです。
秋田ではあまり使われてはないですが、福禄寿さんの「隠れ彦べえ」というお酒は、
五百万石の長所をうまく表現していますね。あれは大変おいしいので、よく買います。
 20~30年ほど前、当蔵でも「五百万石」が、相当使われていたようです。
酒造組合にあった「秋田の酒蔵」という古い本を見ると、普通酒の麹などに、五百万石を
使っていたとありました)


話が飛びましたが、この「たかね錦」から、ふたつの有名な米ができたわけです。
ひとつが「改良信交」、もうひとつが「美山錦」です。

「改良信交」は、「たかね錦」を「二次選抜」(栽培特性/醸造特性の良いものを選択的に抽出する)して、育てやすいものを選んだ、というものです。 
ですから「改良信交」は「改良たかね錦」というか限りなく「たかね錦」に近いものです。

一時期、「改良信交」は秋田の酒米を席巻し、大吟醸などはほぼすべてこれで仕込まれていた
ようです(山田錦が手に入る蔵は少なかったでしょうから—-)。
しかし、時代はくだり、「改良信交の味わいをそのままに、もっと育てやすいものを!」
という声から、富山県(間違いました、長野です—-)にて、親の「たかね錦」に放射線を浴びせ、人工的に突然変異を起こし、
丈の短い株を入手することに成功しました。ちょっと乱暴なやり方ですね。

これが「美山錦」。無理矢理、格段に、育てやすくなりましたが、
けっこう味わいも変わってしまいました。
まろやかさが薄れ、もっとすっきりな感じになったのです。
これは「美山錦」は、「改良信交」よりも、「亀ノ尾」の血が強く発現しているからでは
と思います。

「美山錦」もいいんですが、私は「改良信交」の丸みが好きなんですね。
というわけで、当蔵では、「美山」より「改信」に力を入れてます。
いずれ「吟の精」「美郷錦」「酒こまち」と、全量秋田県産米にしたい! と考えてます。