以前、お世話になっている酒屋さんから「お酒の貯蔵温度は何度がいいのか?」
という質問を受けました。
が、あまりに難しい質問のため、明確な回答を出せず、相当に時間が経っておりました。
これは、はっきりいって、これは相当な難問です。
ただ、基本的には、その酒をどうしたいのか? というところで対応が決まってくるのではないのか
という気がいたします。
まず、味を変えたくない場合、どんな酒でも、冷蔵庫に入れるべきだと思います。
まったく変えたくない場合、特になまざけなんかをそのまま保管したい場合は、マイナス5度くらいの
冷蔵庫を使われる酒販店さんもおりますね。
ところが、
冷蔵庫に入れると、味が変わりにくい=熟成しにくいということでもあります。
フレッシュな酒ばかりが日本酒でもありませんし、
冷蔵庫の中でしか、日本酒が生きて行けなくなったら、なんだか哀しいことにも思えます。
今後は、むしろ常温域でも、味があまり変わらないか、むしろ良くなってゆく、つまり熟成して
品質が上がる、そんな酒を目指さなくてはいけないのではないでしょうか?
冷蔵庫の力を借りなくても、味が悪くならない酒を、飲み頃で飲めばいいだけの話です。
さて、劣化と熟成について。
この境界線は人によって違うので、あまり突っ込みません。
この二つは同じ現象を表現しているにすぎないので、
「熟成が早い」=「劣化しやすい」と言い換えてもいいと思います。
そういう酒というのは、
・糖分が多い酒(酒度がマイナスの酒。あるいは、酒度がプラスでも、相当甘く感じる酒はブドウ糖の
濃度が多いです)
・アミノ酸が多い酒
・酸度が低い酒
でしょうか。
こういう酒が悪いわけでなくて、こういう酒は、早飲みに適す酒質だということです。
(実際のところ、貯蔵による酒の変化には、他にもいろんなファクターが関与していて、
いちがいに言えないところもあるのですが—)
さて、劣化しにくいのは、まるきり逆。
・糖分が少ない酒(酒度がプラス。また、ブドウ糖濃度が低い)
・アミノ酸が少ない酒
・酸度が高い酒
しかし、上記の成分を満たすのは、まんまワインなので、なんだか
胸くそ悪い気もします。
しかも、ワインは亜硫酸塩などの酸化防止剤も入れていいし、日本酒では、遠い昔に添加を禁止された
ソルビン酸なんかもいまだに入れていいし、
しかも、赤ワインなんか、ポリフェノールとかタンニンとかの天然の抗酸化物質も多く含まれていて
それは何十年も長持ちするでしょうよ、ずるいですよ。
—–といっても仕方ないですね。
日本酒は、日本酒の熟成があるのです。
ちなみに、糖分が少なく、アミノ酸が少なく、酸度が高いというのは、
酵母が元気に発酵したときにできる酒です。
「酵母が米のエキス(糖とアミノ酸)をかなり食っちゃった酒」
つまり「発酵度が高い酒」です。
こういうのは、傾向として、搾ったときには飲みづらい! エグい、渋い、辛い!
印象が強いのですが、適温でじっくり熟成させると、まろやかで飲みやすくなるんですね。
これが、いわゆる「秋上がり」です。
昔の日本酒は、がっしり発酵させて造り、涼しい蔵の中にて保存し、
秋頃に飲むということが基本でした。
本日は、たまたま蔵内に数本残っていた、昨年醸造の「80%純米」をテイスティングして
みました。この酒は、すでに完売して半年以上経っている商品で、
搾ってからもう一年半くらい経つのですが、7℃くらいの冷蔵庫で保管していたものです。
この酒は、低精白だけに、酵母も米の栄養のおかげで元気に発酵し、
出来上がったときは、酸が高く、酒度はプラスで、糖分も残らず、
相当な「男酒」でありました。
しかし、冷蔵庫の中とはいえ、けっこう経つのに、劣化はしておりません。
荒さ、刺々しさが失せて、たいへん丸くこなれた良い味でした。
当蔵の古関曰く、「あと、最低半年は待って飲みたい」というくらいで、
まだ味が丸く、香味が上昇しそうです。
今から考えると、この酒のポテンシャルであれば、
相当フレッシュな状態で出荷したことになるんだなあ—–という気持ちになりました。
実際、他社の酒を飲んでも、滅多に「その酒のピーク」に出会えることはありません。
現代の酒蔵は、きっと(酒質にこだわるところほど)、「劣化」を恐れるあまり、
「若出し」する傾向にあると思います。
つまり、「老(ひ)ね」てるよりは「荒い」「堅い」ほうがまだいいという判断です。
流通中にも熟成は進みますし、また、在庫が少なく、回転が速い方が経営上もいいわけですし、
そういう傾向にあるのではなかろうかと思います。
まあピークが過ぎてしまったら手の施し様はないので、
飲み頃が先にある「若い」酒は、確かに「古い」のよりは、
ずっとマシかもしれません。
ただ、あまりに早出しされた酒は、飲みにくいものであることには変わりはなく、
製品として完全ではないという点では争えないと思います。
まずはメーカー側が、出荷時の味について研究すべきなのでしょう。(特に当蔵も—-)
結論。
酒の管理温度は、酒質によって決まる。
その酒のピークの味わいで飲めるように、蔵/酒販店/お客さんの三段階で、
管理をする。
まずは、蔵側は、酒のタイプから、その酒の味のピークを予想し、できるだけ多くの人が、
そのポイントで賞味できるように出荷タイミングを計算すべき。
常温でもへこたれず、香味が上昇する酒が理想。
その上で、酒販店さんも、酒質に応じて管理するべき。
蔵側で、管理をしていた温度を、お店でもひきついで管理すべきと思います。
蔵で低温瓶貯蔵なら、できればリーチインが望ましいでしょう。
ただし、その酒が若い場合などで、蔵が「要冷蔵」と指定していない限りは、
酒質に応じてある程度、管理温度は変えてもいいと思います。
ただし、相当キャリアが必要かもしれません。
さらに、お客さんも、一口飲んで「堅い」と思ったり、「荒っぽくて飲みにくい」と
感じたら、すぐ封をして冷蔵庫か冷暗所で、さらに低温熟成をかける、というのがいいと思います。
とりとめのない話になりましたが、つまるところ、
どんな酒にも「最高の飲み頃」があって、
そこを飲まない限り、払ったお金ぶん、楽しんでいないということになるというわけです。
それではもったいない。
そして、酒の味わいを完成させる余地は、
最終的に、お客さんのセンスと好みにも、委ねられているわけです。
手間はかかりますが、楽しみにもなりうることではないでしょうか?
ではまた。
ワインみたいなできるだけ「熟成」させたほうがいいようなものでは、冷蔵庫の
温度は低すぎて、ナンセンスです。
同様に、日本酒も、堅くて渋~いようなお酒は、冷蔵庫よりも常温のほうがいい。