「すばらしき酒米の世界」というタイトルで、
秋田県産の６つの酒米をテーマに、計六本のお酒を３ヶ月に渡って頒布いたしました。
そのラベルでは、米の紹介だけでなく、産地の紹介もあわせて行いました。
そこで、産地の「観光ポイント」を、いろいろ調べたのですが、
中でももっとも行ってみたかったところへ、本日、（家族で）行って参りました。
その名も、湯沢の「川原毛地獄」！
湯沢駅から車で４０分超、ぐねぐねと山道をえんえんと登り続け、たどり着いたそこは、
もう、一面、不毛の地！
硫化水素がそこらじゅうから吹き出ている、
石灰地層の見るからに酷い現場！
ここを歩き倒そうと、トライ。
標高が高くて、やや息苦しいような気がしなくもないのに、
あの温泉特有の臭い、硫黄の臭い、腐った卵の臭い（硫化水素）のせいで、
意識もうろうとしながら、娘を背負って汗だくになりながら（娘にはたいへん申し訳なかった）、
この白と黒と、黄色（硫黄の色）の山を登っておりて、
汗だらだらで、もくもくと歩きました。
そのうち、軽く脳がトリップしはじめ、
仕込んだ全てのもろみが、なぜか発酵不良に陥って—–、
なぜかといえば、例えば、ポンプが壊れて、いつもの２倍以上の仕込み水が入ってしまったとか、
私が仕込配合表を書き間違えていて麹歩合が１５％しかなかったりとかして、
とにかく、もろみが栄養不足になって、硫黄くさい臭いを発し—–
蔵中、腐った卵の臭い、いやさ、おならの臭いまみれになったら、どうしよう—-
折悪く見学者が来て、蔵人全員、腹をくだしていると思われたらどうしよう—-
という妄想をめぐらせながら、往復４０分、踏破いたしました。
いや～ひさしぶりいい汗かきました。
＊ちなみに、発酵が急激に進みすぎたり、
酵母の増殖に麹や蒸米からの栄養の供給が追いつかない時、
もろみから「硫化臭」が出ることは稀ではありません。
酒母や、もろみ全体から、吐き気を催すような下品なおならの臭いが、
昼も夜も夕もなく、とめどもなく噴出するので、造り手は誰しも、
「終わった—–」とがっくり膝から崩れ落ちるものです（嘘です）。
いや、別に「硫化」が出たからって問題はありません。
特に、吟醸酒のもろみのように、麹をキレイに造ったり、
麹歩合が低かったりするような場合とか、
あるいは、酵母添加量が多いタイプの酒母とかでは、栄養欠乏状態の増殖／発酵
（スタックファーメンテーション）が起こり、「硫化」が、頻出します。
このメカニズムはけっこう複雑です。
細胞膜を造るのに必要な、硫黄分を含んだアミノ酸（含硫アミノ酸）が少なすぎるとき、
酵母は自分で仕方なく、硫酸イオンを用いて、そういった必要な含硫アミノ酸を、
自ら生合成することができるのですが（酵母には「必須アミノ酸」なんてないのです、
全部、自分で造ってしまう！！）、
その時、生じるのが「硫化臭」なんですね。まあ、ここらへんは複雑すぎるので、詳細は後日。
ただしこの「硫化」、もろみ末期では、
たいていの場合には消失するので、さほど気にする事はない現象です。
最近では、栄養素の供給は少ない方が酒質が良くなるということから、
「硫化」は、出た方が良いという説もあります。
ただし、酒中に溶存する「硫化臭」は、
日本酒の老ね香の主成分である、タマネギ様の臭い
（エタンチオールとかジメチルトリスルフィドとか）
に変化しますので、もし、特にもろみで硫化水素がでたら、
ガス抜き、濾過などはしっかりしたほうがいいと思います。
当蔵でも、まさか老ねるわけがない温度環境や、速度で、
なぜか酒が老ねっぽくなっていたりするときがありました。
そういう時、その香り成分は、あまりにも、通常の老ね香とは違っていて、
カラメル的な甘い要素がなく、モロに「つけもの」ぽかったりするのです。
そういう酒は、お客さんに、「あの酒は弱かったね」なんて、実際、言われたりもします。
ガーン、それって、どういうことですか？
と、共通項を抜き出してみると、そういう場合、もろみで硫化がでていることが多いのですね。
そういうのは、酒が「未熟」で「弱い」と錯覚されがちですが、そういうわけでもないのです。
対応さえしておけば、それほど問題なかったりもします。
えー、また脱線しまして、
まあそれはどーでもいいことで、結局、
帰りは、通り道にある「泥湯（どろゆ）温泉」という秘境温泉で
汗を流してまいりました。
観光スポットとしても、秋田は素晴らしいところがいっぱいあるんだなあ
と再認識した一日でした。
で、寝る前に飲もうと開けたワインから、いきなり、だめ押しに、
またもや腐った卵の臭いが！
ワインでも、無濾過（アンフィルター）の自然派タイプのワインには、
こうした硫黄っぽい臭い（＝還元臭）が頻発します。
こういうのは亀梨くん（ですか？ ドラマ見た事ないけど）に、２階の窓から
神業的なデキャンタージュをしてもらわないと！
いやはや、醸造酒って、まるで母なる大地のようですね（意味不明）？