普通酒の本質とは?

先日、レストランに勤めており、将来は有機栽培や有機肥料で生育された原材料だけで
「有機レストラン」を開業したい、という若い方とお会いして、お話したのですが、

「日本酒にも、オーガニックワインのような、防腐剤が入っていないものはないのですか?」
という質問を受け、またショックをうけてしまうことがありました。

「どちらかというと、防腐剤のようなものは、あらゆる日本酒には、ぜんぜん
入ってはないですよ。

 むしろ、防腐剤というなら、オーガニックワインでも関係なく使われる亜硫酸なんかのほうがその『防腐剤』という表現に近いと思います。
 ただ亜硫酸は二酸化硫黄で、ぶどうを搾るときや、瓶詰めの時などに酸化を
防ぐために使われますが、別に体にそこまで悪い物質でないですし、防腐効果というか
酸化を防ぐ効果はあるものの、熟成中になくなってしまいます。瓶詰め後半年くらいしか残らない
と言われていて、市場に出てくるまでにはワインの中から消えているので、
私はまったく否定しないです」

というようなことをやんわりと言っておきましたが、この手の質問は月に一回くらい受けるような
気がします。

なぜここまで日本酒は、「混ぜ物」的イメージがあるのでしょうか?
難しい話です—–。
マッコリがブームだとか言いますが、コンビニで売っている製品の、
裏側の原材料表記は、あまり褒められない感じですね。
もちろん、たいていのリキュールの原材料表記もそうなんですが。
きっと、日本酒とリキュールには求めているものが違うのだろうということは
わかるのですが——。

そういう意味では、日本酒のイメージが悪いのは、
醸造アルコールの他、糖類が添加されたりもする「普通酒」の影響も、確かにあるの
だろうな、と思います。
この「普通酒」が、市場の酒の八割近くを占めているのが現状ですから、
確かに問題だと思います。
こういう状況を早く変えたい、と当蔵も頑張ってはいるのですが。

とはいえ、イメージというものは恐ろしいです。

例えば、ワインなんて、原料表記に書かなくていいだけで、
酸や砂糖などは、必要とあらば相当に補充してもいいのです。
国によって、規定は違いますが、葡萄の出来は、毎年相当違うので、こうしないと
ばらばらな酒ができてしまうからです。

それに日本酒のアル添製法についても、確かに添加物ではありますが、
ワイン界では、ポートワインとかシェリーとかの「酒精強化ワイン」(アル添ワイン)
を造るためには欠かせない技法です。
(まあ、普通酒のように、増量目的で大量に入れるわけではないので、
まったく意義は違いますが)

そもそも、「普通酒を飲んで頭がいたくなる」のは「醸造アルコール」や「糖類」みたいな
添加物のせい、と思い込んでいる方も多くおられますが、これまた違うと思うのです。

「醸造アルコール」は、連続式蒸留焼酎みたいなもの(つまり、かなり純度の高いエタノール)です。
みんな大好きな、リキュール、カクテル、チューハイのベースのアルコールです。
ということは、みんな、ばりばり飲んでいますが——頭痛くなりますか?

糖類とかだって、コーラとか清涼飲料水に入ってようなものと変わりないです。
それらが悪酔いの原因になるのはあり得ないと思うのです。

ちなみに当蔵では、普通酒がぼんぼん減って、全出荷量の半分割るくらいまで来ました。
アルコール添加量もどんどん少なくなって、本醸造と区別がつかなくなってきてます。
さらに、いろいろと独自のやり方を研究して、いずれすべて純米にすべく頑張っている最中です。
個人的には、旧来の普通酒は、時代の流れにそぐわないものと思っているからです。

が、一方で、うまい普通酒は旨いことを、私は、知っています。

普通酒の本質は「甘酒のアルコール割り」、つまり「甘酒リキュール」です。
日本酒を途中で、まだかなりもろみが甘いうちに、
相当量の醸造アルコールを添加して造ります。
その際、かなり米のエキスを薄めてしまうので、甘みや味わいが足りなくなったぶん、
最後に「四段掛」という、さらに別に造った甘酒を投入して、甘みとコクを付け加えて、
完成になります。さらに「糖類」を添加する場合もありますが、
それをしない蔵もあります。
先日、同業者の大先輩に聞いたのですが、
当蔵が5年くらい前、普通酒に糖添加を止めた時「新政がやたらに辛くなった」と評判になって、
相当、うちは普通酒のシェアを落とした、ということでした。
普通酒って、甘くてなんぼなんですね。

さて、話は戻りますが、ご想像の通り、甘~い酒にアル添してまた甘酒で味を加える。
普通酒は、「甘酒のリキュール」なのです。まともな腕のある蔵で造られた普通酒は、旨いのです。
複雑な味わいでなく、も~~う、わかりやすーい、ダイレクトで単純な味。
酸味もあって、もっと甘みもあり、ちゃんとした米で、手抜きせず造れば、
もともとはクリアなテイストな酒なのです。
(しかし、貯蔵でおかしくなって、濾過を過剰に行われるので、酒臭くなることが多いのです)

私は思うに、味覚が単純化した現代においては、ちゃんとした造りをしていて、
しかもフレッシュな普通酒は、もしかして、
フレッシュな純米酒よりも、受け入れらやすい味わいかもしれません。

こういうことを考えていると、思考が行き過ぎて、本当にドツボにハマるわけですね。
いろいろと犠牲にして酒造りをしても、結局、コーラのリキュールとか、
単に砂糖水にアルコールが混ざったレベルの単純な飲料に完敗してしまうのでは?
とか考えてしまいます。

でも、日本酒が、吟醸とかスッキリタイプをテイストを核にしつつ、
インパクト勝負の、シンプルな味わいの方向を尊ぶならば、特にそれは
起こりうることではないでしょうか?

ジューシィな日本酒が人気だと聞く度に、
それならジュースに負けるんじゃないのか—–
と思うのは私だけでしょうか?

例えば、リンゴのストレート果汁のリキュールと、
山田錦35%精白の「純米大吟醸」を並べてみて、
完璧に比較にならないくらいに普遍的な美味しさで勝つか、
あるいは、勝負にならないような別次元のおいしさを呈示できるのか、
——そうでなければ、誰が、あんな高いものを買って飲むのでしょうか?

こういうことは発酵産業全体に起こっているのではと思います。
頑張って昔ながらの本格的な漬け物を造っても、
あっさり風味の、まったく発酵現象すら起こってない、調味料をぬりたくったような
漬け物に敗北する。—–とか。


うーん。
脱線しまくり。

はじめは「普通酒を飲んで頭が痛くなる『本当の』理由」について
書こうと思ったのに、猛烈に話がずれてしまいました。もろもろの結論は、
また明日!