今年の米

今年の米については、地酒ファンの皆様は、
いろいろとお聞きされていると思いますが、
はっきり言って、戦闘意欲を削がれるほどひどい状態です。

特に、秋田の米は非道いようです。
ああ、オール県産米にしたとたん、これです。

酒米だけでなく、
食用米についても無惨な状況。
まずはコンビニで売っている「店で握った手作りおにぎり」が半端なくまずい。
もさもさで、ぼろぼろで、まるで芋を食っているような気すらします。
他県産米の、出来合いのおにぎりのほうが、残念ながら、ずっと旨い。

東北六県でも秋田は、あらゆる指標で米の収量、出来が良くありませんでした。
これは前代未聞で、大事件なのです。
他県が悲惨な出来でも、いつも、必ず、何百年も前から、秋田の米だけは欠かさず豊作で、
質も良かったはずなのに、
今年は完全にひっくり返された模様です。

今年の新酒については、全国の銘柄のものを、すでにけっこう飲んでいますが、
どれも共通して、中身がすっぽぬけたような酒が多いですね。
で、味がどれもけっこう似ている。
米の実質が酒に出てこないから、どの酒も似てくるんでしょう。
まあ、百歩譲って良く言えば「軽快」なんですが—–。

酒が売れなくなるから、あまり、米のことをは書くな、と言われているのですが、
私ははっきり書いた方がいいと思うんですね。
今年は、最悪なオフ・ヴィンテージだと。

そして、昨年は素晴らしい年だったとも、付け加えておきます。

ですから、昨期の末頃に搾られて、冷蔵管理されてる純吟系統などは、いままさに狙い目。
薄っぺらな新酒などを買っている場合ではありませんよ!
貯蔵期間をきちんと長く取る傾向のお蔵さん、
最低でも半年から9ヶ月は寝かせてから出荷するようなお蔵さんでは、
そういう酒がいっぱいあるでしょう。これに、目標を絞って購入するのが賢いわけです。
端的には、「春霞」なんかが狙い目ですよ!!

—–というような、売り方もあるのですし。

どこの蔵でも、いつも「米の出来が一番重要」「契約栽培に力を入れています」とかいいながら、
今年のように出来が悪い年は、一転して「技術でカバーします」と、
ついつい、手のひらを返したような弁解をしがちなんですが、ここは、ぐっとこらえて、
「米の出来が最悪なので、昨年より良い酒はなかなかできません」
と正直に言うべきなのです。



もともと、日本酒は、毎年毎年、値段が同じ。
米の出来が悪かろうが、良かろうが。
米の収量が多かろうが、少なかろうが。
米の値段が下がろうが、上がろうが、同じ銘柄はいつでも同じ値段。

これって、おかしくはないでしょうか?
日本酒のような、繊細な伝統工芸的な食料品は、
好きなだけ大量生産できる製品などではないんだから、
その出来によって、ある程度、値段が変わってしかるべきだと思うのです。

今年の米の出来は悪い。ひいては、酒の出来も良いとは言えない。
思えば、昨年は最高だった。
神様、ありがとう。昨年、あんなにいい米をいだたいていて、
無頓着なところがありました。
確かに、今年はぱっとしないけれど、これも自然に成り行き。
来年は、そのぶん良いかもしれない。
人生、山あり谷あり。三歩進んで二歩下がる—-。

こう考える事も大切なのでは? という気がします。
自然の摂理を受け入れることで、大自然の壮大なストーリーを
バックにつけることができます。

我々に都合の良いことばかりではないことを認め、いや、あえてそれをネタにして、
長いストーリーを紡いでゆくような余裕があれば、もっと日本酒の奥深さや繊細さ、
人間の人知の及ばぬ、神聖な部分がPRできるのでは? と思います。

ここで「技術でカバー」とか「うちの造りでは、むしろこういう米があっている」
などとうまい言い訳でまとめてしまうのは、
逆にヴィンテージの価値を相殺してしまって、面白くないなあ、と個人的に感じなくもないですが、
いかがなもんでしょうか?

ということで、まとめ。
今年は、全国的に米が最悪ですが、それもまた、自然から生み出される日本酒の定め。神の悪戯。
やがて来るグレートヴィンテージの年の酒と対比するためにも、
今年の完璧とは言いがたい酒を、深い想像力を持って、日本酒ファンの皆様には、
楽しんでもらいたいと思います。

(などと遠回しに、長い言い訳を書いているのでした—-?)
fin