ここのところ腹の具合が悪くなりまして、病院に行って消化器内科にかかりましたら、
「ちょっと精密検査をしよう」ということになりまして、
超音波検査を受けさせられました。
若い医師が、スキャナーをぐりぐり私の体にあてて画像を撮影していましたが、
突然、「あッ」と言って、おもむろに立ち去ってしまいました。
私は、ひとり、べったりゼリーが塗りたくられた腹をむき出しにしたまま、
殺風景な部屋に取り残されました。
しばらくして年輩の医師があわただしく入ってきて、
やたら張り切って、自ら私の体をスキャンし始めます。
そうして、「これは—–ポリープだぞ」と呟いて、
私の腹を一層強く、ぐりぐりとしながら、若い医師と、しかつめらしい医学用語で、
なにやら深刻そうに話をし始めました。
私は蒼白になり、これはヤバいと。
もしかして命にかかわる病かと。
こんな大変な状況のときに、手術、入院かと。
酒造りの現場はどうしよう、まだ酒こまちの純吟もあるし、再仕込み貴醸酒もあるし、
今季再チャレンジの山廃もあるし、
あとは「passion 2011」とか、ほかNEXT5皆で考えているイベントとか、
取り組んでいるもろもろもろもろもろもろの仕事に支障を来すのでは?
と顔面蒼白になり、超音波の検査結果が入れられたクリアケースを持って、
暗澹たる気持ちで、消化器内科に戻りましたら、
先生は、書類を読んで、カルテに貼られたスキャンの画像を私に示しながら
「あ~、ここ、胆のうにポリープがあるけど、小さいので問題なし。まあ良くあること」と、
それで、話が終わっちゃいました。
再検査など、まったくいらないというのも、逆に不思議なものですから、
自分でもちょっと調べてみたんですが、それによると、
胆のうポリープとは、中年以降にけっこうな頻度で見つかる症状らしく、
一般的にはほとんど無害な症状ということ。
ただし、10mm以上のものだと癌、あるいは癌化するおそれがあるということで、
大きめのものは継続的に検査をする必要があるとのことです。
しかし少なからずショックで、私36歳なんですが、まあ
無害とはいえ、健康的な人や若い人には、そんなポリープなんか、出ないよなあ。
ああ、もう少し、健康には気を使わないとなあ、と思った次第です。
(ちなみに、胃痛の原因は神経性だろうと。
こりゃあ、ある程度は仕方ないですね——最近はいろいろとありまして)
とまあ命拾いしたわけですが、本格的に、食生活は改善しないとなあ、思いました。
悪いもの食べているわけでないのですが、炎症中の胃のためにも、
今まで以上に、塩分と脂肪は気をつけなくてはならないようです。
それに加えて、(最近の原発事故によることもあるのでしょうか)、
今まで以上に、大切な日本の国土のことやら、これからの日本の食をどうすべきか
ということについては、いろいろと考えることも多いのです。
さらに、秋田は、癌死亡率ワースト1。
特に、塩分過多の食文化のためか、胃ガンが、相当に多い。
県のがんの死亡率の中で、胃がんの死亡率は10万人当たり62・9で、
むろんこちらも全国ワースト1位です。
(高齢者が多いので、癌死亡率が高いのも当たり前なんですが)
ともあれ、これは、なんとか自分のためにも、
我が故郷秋田のためにも、対策を練らねばなりません。
私のところは発酵技術で飯を食っているわけですから、その手の知識もありますし、
造りが終わりましたら、発酵技術を駆使して、郷土の食文化のため、
何か貢献できないか、と思うようになりました。
例えば、糠味噌(ぬかみそ)とかで、理想的な漬け物をつけてみたりしたいなあ
と思います。現在の高度に発達した日本酒造りの技術を応用すれば、
もっとおいしくて健康に良い、塩分にあまり頼らなくてもいい、酒が進む
漬け物とかできるんじゃないかあと思うのです。
ちなみに、糠味噌なんて、余裕で造れますよ。
オーバーでなく、15分以内に造れますね。
精米所に、糠は大量にありますからね。特に、糠味噌に使う、いわゆる赤糠は、
普通、酒屋では、家畜の餌用に販売して処理するものですし、いっぱいあります。
塩なら、ボイラーソルトも常時数十キロ単位で、
そこらへんにあります(それは食べ物に使ってはダメか—-)。
さらに、酵母(無論、6号酵母)も、分析室の冷蔵庫の中にいるので、簡単にゲットできますし。
山廃の乳酸菌が糠床で繁殖できるかわかりませんが、
山廃酒母が立っていれば、そういうとこから乳酸菌も取ってこれます。
(まあ、普通は、野菜を入れておくと勝手に、乳酸菌や酵母もついてきて繁殖するものですが)
ちなみに「糠味噌」とは、あの漬け物を漬けておくグチャグチャしたもののことで、
いわゆる普通の「味噌」とは違いますよ。
糠味噌の床は、精米した後の廃棄物である糠に、5~15%の塩を混ぜ、
保存状態を良くしておき、そこに耐塩性の乳酸菌と、酵母が繁殖することで、
糠が発酵し、最終的に、味が複雑になった状態を言います。
発酵が進むと、糠味噌の床は、乳酸で酸っぱくなり、衛生状態が上がり、
その中で酵母が繁殖し、糠の成分を食って、アミノ酸ができて—–
というサイクルが繰り返されるのです。
で、そこに漬けた野菜に、そのエキスが吸収されるということですね。
つまり、まあ、糠床というのは、(また誤解をおそれずに書くと)、
「生モト系の酒母」の友達のようなものです。
糠床って、ちゃんと手入れすると、100年以上持つんですって。
(ほっとくと、表面にヤバい菌が沸いたり、中が嫌気性になりすぎて酸っぱくなりすぎる
ので、毎日かき混ぜないとならないらしいのですが)
そしたら、きっとやりようによっては、生モト系酒母も、
(原理的には)アルコール濃度を調節しつつ、発酵材料を足し続けていったりすれば、
もしかして永遠に発酵が継続しうるのでしょうか?
そんなんあったらすごいですよね。
200年くらい増殖/発酵を続けている酒母があって、そこから使用するぶんだけ、
毎回分けて取り出して酒造りをしたら—–。
という一見酒に関係ないことも、酒造りをやっていると、
発酵現象つながりで、嫌でも覚えてくるので、
酒屋仕事というのは、本当に奥深く、やりがいがあるものです。
発酵技術で、我々も、これからの日本の食の安全に、
もっともっと寄与することができるかもしれません。
話が脱線しましたが、
胃が弱い人は、塩分の取り過ぎに注しましょう!
で、いつか6号酵母入りの糠床で塩分少なめのいぶりがっこでも造ってみま~す。