出品酒開始!

さて、今日で一月十日。早いものですね~~、
もう10日過ぎたなんて。

実は昨年末から、ひどい長い風邪をひきっぱなしで、
おとといくらいまで、かれこれ2週間以上、咳と鼻水と倦怠感に
悩まされておりました。

12月~1月頭は、販売も製造も超繁忙期なので、会社は休めません。
休めないどころか、体調がマックスに悪かった大晦日は新年搾り。
真夜中に酒を搾り、午前3時ころに神社へ行って、木札をお払いしてもらって—
などとやっていましたら、無論、ぜんぜん治らない。

これ以上、風邪をひきずると、本格的にこじらせて
肺炎になるのではとびくびくしていましたが、ここ1~2日ですっきりと快癒。
たいへん、お騒がせしました。

で、具合が悪くなっている間に、残念ながら、
今年は重要な酒の仕込みが夢のように過ぎ去ってしまいました。

全国新酒鑑評会に出そうかな~と設計した、酒こまち35%の仕込みが、
1/3日でした。今は、すでに元気に発酵中です。

あーだこーだと、設計して、いざやろうと思ったら、体が動かず、
麹の泊まりも、仕込みも全部、部下にまかせてしまいまして、よくわかりません。
これは例年のように、私が腕をふるった作品でなく、
普通の市販酒のように、みんなで醸したものになりました。でもそれでいい!
うまく立ち上がってますので、いい酒になるでしょう。

ちなみに、全国新酒鑑評会用に造っているこの酒は、
麹:吟の精 35% 磨き
掛:酒こまち 35% 磨き

です。35%磨きって、けっこううちでは珍しいです。
気合いが入っているのですね。

さて、酒母について。当蔵はこの24Byから「純米蔵」にするついでに、
「醸造用乳酸無添加」でやろうと決めましたので、
出品酒につきましても、いつものように、山廃にしようか迷いましたが—–

35%磨きで山廃はいままでやったことがなかったのと、
やはり山廃の酒母は、若干ながらクセがあります。
(当蔵は酒母の使用量が少ないのとか、手法上の性格からミルキーっぽいとか
糠っぽいとかの香りはしないものの、酢酸エチルというセメダインぽい香りがちょっと強めな酒母になります)

「生モト」「山廃」系酒母の酒の、酒質上の利点は、酵母が強靭でもろみで死滅率が低いことです。そのせいかわかりませんが、酒がかなり長持ちします。
乳酸菌が、抗酸化作用のある成分を出している事が知られています。
また味にふくらみが出ます。これはペプチドという物質のおかげとされています。
ということで、山廃は酒母としては、実に素晴らしいものです。
というか最高のものです。
(無論、清酒酵母の純度が100%に近く、雑菌が完全に淘汰されたものであればですが)


しかし、出品酒にはこれら「生モト」「山廃」系の利点があんまり効果がないんですね。
1~2月に搾って、4月にすぐ審査されるので、あんまり寿命は関係ない。
99%アル添大吟醸の戦いだし、むしろ味は複雑ではない方がいい。
つまり、(部分的にはですが)市場性とは真逆なものが求められるのです。

結局、かなり悩みましたが、
このあたりが、出品酒としては、かなり不安になりまして、
結局、当蔵のスーパーエースである秘醸酒『亜麻猫』同様の、
「白麹酒母」を採用しました。
この酒母技法、当蔵で普及活動しているので、賞がとれたらどうなるかな~?
という気持ちもありました。

さて、「白麹」が何かということですが、これ説明しますと、
焼酎で使われる麹なんですね。クエン酸という酸を大量に出しますので、食べると異様に酸っぱい。

もろみ酢というものをご存知と思いますが、あれは焼酎の粕を搾ったものです。
大量のクエン酸が含まれていて、酸っぱいんですね。
あれ、アルコールが抜かれた後の、焼酎のもろみの味、白麹まんまの味なんです。

さて、焼酎では、この「白麹」なる高い酸を持つ麹を利用して、酒母(というか一次もろみという)を造り、雑菌汚染を防いで安全に酒造りをしています。

なお、この白麹を使用した醸造技法ですが、
河内源一郎という高名な先生が、大正時代に、沖縄の泡盛の技法を研究して、本土の鹿児島に
持ち込んだのが始まりなんです。これによって、焼酎の技術は劇的に向上しました。
そのため、白麹とその親である黒麹は、河内先生の名前をいただき、アスペルギルス・カワチー という学名なのでした。

で、この麹菌で酒母を立てるのが「白麹酒母」。

「山廃」とか「生モト」の場合は丸いのとか細いのとか、いろいろな乳酸菌たちが、
糖分を食べて乳酸を生み出してくれることで、その乳酸による制菌効果のある酒母になります。

一方、この「白麹酒母」では、白麹の生み出すクエン酸が、同様の効果をもたらします。

そういう意味では、「白麹酒母」は、出来合いの乳酸を添加しないで済む、
「生モト」「山廃」と同様な、ナチュラルな製法なんですね。

まあ、私も、焼酎の技法をそのまま換用しているだけですし研究中なので、
たいへん恐縮なのですが、かなりおすすめです。というか、実に面白いので、
どうか、同業者のみなさまで、興味がある方がいらっしゃいましたら、
ぜひともやってみたらいかがでしょうか?
当蔵でも技法は、やるたびにちょっとづつ改良していますので、
やり方がわからない場合は、メールなどでお問い合わせください。

まあ、「焼酎製造技術解説」などの専門書を醸造協会さんから買ったら、大概の事が
書いているのですけれども—–。

(ただし、このクエン酸、制菌効果自体は他の酸に比べて低いので注意が必要です。
制菌効果が一番高い有機酸は、やっぱり乳酸なんです。
また、クエン酸は健康に良いだけに、制菌効果を生み出さないような量では、
逆に雑菌も超パワフルにしますので、こういうあたりも、注意が必要だったりします。
例えば、ワインでは補酸にクエン酸は使用しないとのこと。雑菌汚染を招くからだと言います。
日本酒の酒税法でも、クエン酸は、酒母などの酒のスターターに入れていい発酵助剤としては
認められてませんね。
制菌効果が低くて、むしろ危険なこともあるからなんでしょう。
そういうリスクはありますがやるに足るものと思います)

まあ、話は戻りますが、出品酒の酒母を「白麹酒母」でやってみたんですよね。
そうしたら、酒母の酸がかなり高くなってしまいました——。

うーん。白麹の造り方がまだよくわかっておらず、酸がかなり出たり、
出にくかったり。まあ、まだ白麹のことがわからんところがあります。
まあ、麹菌、生き物ですしね。
黄麹だって、酵素が出たり出なかったり、完全にコントロールするのは大変だから
仕方がない。


「亜麻猫」は酸っぱければOKなので、とりあえず白麹をたくさん造って、
必要量だけ入れればいいので気が楽ですが、
今回みたいに、必要最低限の酸度が欲しいというときは、やっぱ、ちょっと難しいです。

ま、酒母で多少酸度が高くても、もろみではそんなに影響ないとは思いますが、
私としては、すでに副杜氏の古関君の担当の出品酒に期待してます!



がんばれ古関!!

蔵元駄文-古関

なお、古関副杜氏の出品酒も
麹:吟の精  35%
掛:酒こまち 35% の配合。
今回、酵母は、私同様、泡なしの六号酵母、きょうかい601を選択しました。


さてさて、役所の経費削減、独立行政法人の統廃合の荒波のなか、
100年の歴史ある「全国新酒鑑評会」が、今後どうなるのか、
業界関係者はみんな固唾をのんで見守っているわけですが、
当蔵はどのような成績を納めるのでしょうか?

ではまた!!