本日は、全国新酒鑑評会の締め切りの日でした。
当蔵も出品にギリギリ間に合いました。
先週末、4/1は横浜でチャリティイベントに参戦しておりましたが、
ちょうどその日、出品するお酒が上槽になっておりました。(というかもはやタイムリミットで上槽せざるを得なかったのですが)
私としてはせっかくの完成の日に不在だったのが悔やまれますが、蔵一丸となり、なんとかラストはうまくまとめたつもりです。
なお搾りから出品まで普通はどうするかというと—-。
上槽(袋吊り)→斗瓶という容れ物に入れて一週間くらい静置
→澱が沈んだら上澄みだけ吸い取って一升瓶に入れる(澱引き)
→瓶燗→急冷→出品用の500ml瓶(R瓶)に生詰→郵送
となります(うちの場合)。
ですが—-
今回はもろみ期間がかなり長引いて、斗瓶に入れて澱引きする時間がなかったので、
超荒技になってしまいました!
どう荒技かというと、袋吊りして、酒が出て来ます。はじめは、いわゆる「あらばしり」という部分で大量の澱が含まれていますが、かなり待っていると、だんだん澱が含まれなくなってきます。
そして、味が良くなったところをみはからって、いきなり出品用の500ml瓶に酒を入れ、そのまま瓶燗、急冷。翌日郵送!
ということになりました。
袋吊りの酒は刻一刻変わってゆくので、これだと瓶ごとに味がどれもバラバラになってしまいます。再現性がないし、本来ダメなんですが—-仕方ないのです。広島までは2日はかかるので、こうでもしないと間に合いませんでした。本日の午前必着だったんですね。
さて。この酒は以前のブログで「出品酒としては」酸が高くなりすぎて—
ということを書いた酒ではありません。急遽、設計を変えて作り直しした別の純米大吟醸です。
今回の原料米は「改良信交」。しかも35%磨き。
(昨年は40%で造りましたが、秋にいい成績だったのでもうちょい磨いてみました)
出来上がりの最終スペックは?
酸度 1.75
アルコール16.2%(原酒)
酒度 -1
となりました。結局、酸は結構出てしまいましたね—-。
でも、まあいいです。同じ轍は踏むまいと、前もって予測したので、
今回は、前回よりやや甘くしてバランスをとりました。
味は—-うーん、様々な制約の中で、健闘したかな? という感じです。
やはり酸を感じますが、バランスは悪くはないです。市販酒としてもいい感じですね。
いつもながら、大変なのは、アルコールを出さなくてはならない事でした。
できれば、16%後半か17%前半までアルコールを出した方が善戦するのでしょうが、酒質を考えると、今回は16.2%まで出すのが精一杯でした。
一般的に米を磨くと、酵母にとって栄養が足りなくなるので、アルコールは出にくくなります。
全国新酒鑑評会などに出品するような酒は、平均精米歩合が35~40%というかなり低い精米歩合まで米を磨いているため、酵母にとっては栄養に乏しい状況です。
こういう状況で、低温発酵すれば、アルコールはあんまり出ません。
出品大吟醸の造りは典型的にこのようなものなので、おおよそアルコールが15%台でも搾れるようになります。
この程度のアルコール度数ならば、酵母は死ににくいので、酵母の死骸が雑味になることがなく、アミノ酸も低く、味はさっぱりキレが良いものです。
こうした酒に、さらにアルコール添加して雑味や酸を薄め、淡麗にし、かつアルコール由来のノビがある酒を造る—-のが出品大吟醸の造りと言えると思います。
一方、純米大吟醸で、大吟醸と同じようなアルコール度数を目指そうとすると、かなり不利な戦いを強いられるものです。
アルコールが高くなるにつれ、酵母は死にやすくなり、苦みや臭みのもとになるアミノ酸がどんどん増えて、味がどんどん苦く・重く、香りが悪くなります。
特にアルコールが15%を超えると酵母はキビシー状況になってきて、16%以上に高くなると酵母は明らかにダメージを受けはじめ、徐々に死滅しはじめます。
純米造りで味が重くなるのは、単にアルコール添加をしないので味が薄まらないだけではなく、高いアルコール度数に酵母が長くさらされて死んでしまい雑味が増える機会が多いからと言えます。(香りを良く出す酵母は、細胞膜が先天的に弱いので、特に死にやすいです)(もちろん、アルコール添加酒でも精製酒量をいたずらに増やそうとしてアル添前のアルコール度数を高くしすぎれば結局同じ事になります)
ということで、純米では、アル添酒と同様のアルコール度数をゴールに設定すると、積算のアルコール度数が高くなり、酵母のダメージが増大します。このため、「雑味のなさ」を競うような勝負では、不利になりがちです。
純米造りでアルコールをある程度出しながら、酵母も死なないようにするためには、酵母を強靭にしたり、すみやかにアルコールを出し、積算のアルコール度数を少なくしたりなどが考えられます。このためには、麹を造り込んだり、もろみ前半の発酵温度を高くとったりなど、酵母を活性化させるような手だてをとる必要があると思います。しかしそうすると、酒は荒っぽくなってしまい、やはり雑味が多くなってしまいます。
というわけで。今回、当蔵も苦労しました。
当蔵の一般市販酒(今季はアルコール度数が原酒で15%未満が多い)に比べて、
16%台というのは、そもそも、けっこう高いアルコールです。
そこで、この純米大吟醸酒は、市販酒の製造よりも高い発酵温度をとっています。結局、酵母の立ち上がりが遅れたものもあって、最高温度は、今季最高の高さとなりました。
また雑味を出さないため、原料米も大事です。
我々にとってベストな選択は「酒こまち」という米なのですが、今回の「改良信交」も負けず劣らずキレイな味になる米ですし、昨年も健闘した米ですから、なんとかなるかな~~と思って使いました。
さて。このように、純米酒がアル添酒を抑えて、コンテストで勝つのは難しいのですね。
しかし、そういう制約の中で、力試しや、技術向上のために頑張る事は無駄ではないと思います。
我々は、他の市販酒同様、最古の現役酵母である「きょうかい6号」でやってますので、
香りも圧倒的に低く、審査では箸にも棒にもかからぬ可能性が高いのですが、だからこそやりがいを感じています。
さて、秋田では純米酒での出品は—-
「天の戸」
「白瀑」
「ゆきの美人」
「春霞」
そして当蔵。
秋田にも純米での出品酒がどんどん増えてきています!
他にもあるかな??
なお、今回の平成24酒造年度、101回目の全国新酒鑑評会の
審査結果の発表は5月下旬。上記の蔵の健闘ぶりが注目ですね。