まだ造ってるんですよね—–。

実はまだ仕込みやってるんですよね—–。

明日最後の麹造りで、25日に仕込みが全部終了します。
信じられません。やればできるんですね。

確か造りのはじめは、6/30には全部搾れるような計画だったんですが、
仕込み計画がどんどんずれて、このような有様に。

昔は農家のおじいちゃんに、農閑期の冬場だけ来てもらって、一気呵成にガンガン造って
もらっていましたが、今となっては、当蔵、造り手は若者の通年雇用だらけ。
そうなると、一転して醸造期間を長くする必要があります。
社員のための仕事をなんとかして造らないといけないですから。

途中から、あまり無理しないで、ぜんぶ「半仕舞」という一日おきの仕込みに
統一することになりました。(それまでは、時々「日仕舞」という毎日連続して
仕込みをやる日も設けていたのです)

当蔵は、リキュールも焼酎もなしの、日本酒一本なので、酒造りしかやることありません。

ああ、いつか、農場の運営とかやりたいですね! 
春がきたら稲作、夏は田圃で仕事がいいなあ。
これは夢ですが、いつか見渡す限りの無農薬の田圃を運営してみたいものです。
アベノミクスで、法人農業参入の規制がユルくなればいいんですが—-。
(最低、酒米は減反扱いにしないで欲しいですね! 足りないんですから)

いやー。
でも、こんだけ長くやってても、当蔵、生産量は減少しているんですよね。
米も手に入らないし。
細かい実験的仕込みも多いし、純米酒のみの製造で、
中級酒以上が増えているので一本あたりの仕込みサイズがどんどん小型化している。
仕込みのペースをあまり無理したくない以上、仕込める本数は、
上限が決まっているので、生産量は減る一方なんですね。


まあ、そもそも日本酒の生産量自体が、えんえんと減りつづけていますよね。
ご存知と思いますが—-。

日本酒はここ40年近く、減り続けてます。昭和49年がピークでした。
(全体的な出荷量は減ってますが、ここ数年、純米系は「横ばい」あるいは「増えている」んで、これが光明でございますね)

秋田の酒も、昭和50年のはじめころより、35年以上(昨年の震災需要期をのぞいて)減少の一途にあります。量的には、ここ数年、前年対比92~94%くらいで推移していたように
思います。

*しかし現実的には、中堅あるいは小規模な蔵ほど苦戦を強いられているでしょう。
というのも秋田県の清酒市場は、価格競争に陥りがちな「経済酒(普通酒)」が主体です。
スケールメリットが効を奏する市場。
そして、どの蔵も地元比率が高い傾向にあり、この地元市場の影響が多大に経営に影響を
及ぼします。


帰郷してきたとき、当蔵も前年対比90%ちょっとくらいをえんえんと続けていて、たいへん
危険な状況で、私は電卓を打ちながら、「あ~、このままだと、6~7年後には、石数半分だなあ~~~」と思ってたんですが、そりゃそうで、規模としては、まさにそんな感じになりました。

特に、今回「純米蔵」になるという決断で、さらに輪をかけて出荷量の規模は小さくなりました。
でもまあ、これでやりたいことに集中できるというもので、逆にささやかながら、未来に希望が見え始めているように思います。
ただ、急な商品ラインナップの改廃をさせていただきまして、多大なご迷惑をかけた方も多く、この点は、実に申し訳ないです。すみませんでした。
また、応援していただいた方には、本当に感謝しています、ありがとうございます。


さて、この話はまたいずれ続けさせていただくこととして、
そんな感じでコツコツと酒造りを、我々なりのペースでやり続けて来ましたが、
やっとこさ、終わりが見えてきたわけです。

すでに、来季のための修繕や設備投資の構想は練っており、工事に取りかかる寸前です。
また、現場も、終了した工程/部門のものから、長いお休みをとってもらうことになります。
お疲れさまでした。

そして、9月中旬くらいからは、また米を削ったりと、徐々に酒造りの準備がスタートしはじめますが、それまでは、蔵全体がお掃除&設備更新&修繕モードとなります。



さて、(やっと)本題です。
こんな時期に仕込みをやっていて思うんですが、
「酒母」と三段仕込のはじめの「添」。

よくいわれることですが、これは実に大切な工程ですね! 
麹造りや原料処理も当たり前なのですが、発酵学な面では、この「酒母」「添」工程の衛生度が、
酒の善し悪しを決めると言っても過言ではありません。

ということで、この工程は、今でも冷蔵庫の中でやってます。
ここで汚染が起きると、まず酒にならないからですね。

特に、「添」仕込み。
けっこう、ここで汚染が生じる/事故の芽が生まれる可能性が高いです。

酒母やもろみでの汚染菌、特に「(腐造性)乳酸菌」の動向を見てみますと、
やはり三段仕込の最中に菌数が、有意に増加することがわかります。

乳酸菌は、常に麹をはじめさまざまなところに存在して、酒に入ってまいります。
酵母数とアルコールと酸が一気に低下する、三段仕込の最中では特に活動しやすくなり、その増加次第では、もろみを危険に導くのです。

もっとも、気をつけなくてはならないのは、三段仕込のはじめの「添仕込」だといえるでしょう。
衛生的な冬期間はいいでしょうが、こういう温暖な季節はたいへん神経を使います。

添で、特に汚染された麹が入ったり、酒母の出来が悪かったり、酒母の量や酒母に含まれている酵母の数が少なすぎたり、添を仕込んだあと温度が低下しすぎて酵母の増殖がうまくいかない(あるいはこれらすべてが重なる)と、これは、のちのち超危険なことになってしまいます 
最悪、もろみがお釈迦になります。ヨーグルトになります。酢になります。

しかし一方で、添を安全志向でやりすぎると、もろみで酵母が増えすぎて、
酒にはなるけど、飲みにくい、荒っぽい、重い酒になります。
これが勘どころで難しいわけですね。

なので、酒のモトである「酒母」と「添仕込」は、当蔵でもガンガンに冷えた冷蔵庫の中で、
衛生的な環境を作り出しながら、やっています。

「添」さえうまくいけば、あとはある程度安心です。「仲仕込」以降は、当蔵は冷却能力のあるタンク(サーマルタンク)があるので、これに入れてしまう事でなんとか乗り切っています。



まあ、そういう意味でも、
酒造りで一番大切というか、まずもって前提として必要な特性は「衛生管理能力」なのか
もしれません。


蔵人を何人も見てきましたが、身なりが汚いものとか、整理整頓ができないものは、
ちょっと向いていないかもしれないですね。
そもそも、上役が重要な仕事を任せる事ができず、とりたててもらえません。
つまり、いくら経っても面白い仕事をやらせてもらえません。
そうなると、酒造りは厳しい仕事なので、なかなか続かないのですよね。


まあ珍しい事ではなく、別にどの会社、組織でもあることでしょう。
私も多種多様な仕事をしたので、よくわかりますが、
だいたいどんな組織でも裁量が発揮できるポジションになってから、本当に仕事が面白くなってきますよね。
そして当たり前ですが、何年もやってると同期でも差がついてくる——
まあ、よくあるパターンです。

ただ、日本酒造りの場合、「衛生的な人かどうか」。
そこから評価が決まってゆくことが多いですね。なのでこれから酒造りを目指す方は
そこらへん、じゅうぶん肝に銘じてから、蔵の扉を叩かれるのがいいと思います。

まあ、結果的に「日本酒造りはすべて衛生をめぐって回る」ということですね。
さきほど申し上げましたように、日本酒を汚染する菌はそこらじゅうにいるので、だらしない人が造る酒は、常に汚染される確立が高く、よどんだ味の酒にしかならないからです。

もちろん衛生に気をつけるのは、食品関係全部そうなのでしょうが、
日本酒づくりは、昔ながらの開放環境で作業が行われる事が大半で、機械化されていない伝統的地場産業だからこそ、人一倍気にしなくてはならないのでしょう。
日本酒の蔵に求められるのは、「病院の衛生さ」というより、「神社の衛生さ」と
言う人がいます。言い得て妙な表現ですね。



そう考えてみると、日本酒の造り手たちを俯瞰してみると、
無頼派みたいな一匹狼の芸術家タイプは、あんまり成り立ち得ない風があります。(いないことはなくて、たまにいるのが面白いんですが)

酒造りはいくら生産量が小さくても、同時に進行する仕事が多すぎるため、
一人では絶対にできない仕事です。
また、あくまでも酒を造るのは「微生物」です。

作業に携わる人々は、危険な現場で、一糸乱れぬチームワークをもって、ある時は科学的に、ある時は勘で微生物を飼育するわけです。
非常に神経を使う「間接的」な仕事ですから、現場の実質的トップ(杜氏や製造責任者など)には、あらゆる角度で見本になるような、よくできた人が多いものです。
そういう意味では、誰でもできるような仕事ではないですよね。

(私たちも6年程度という短いキャリアですが、何度も失敗し、時に変調した酒を造ってしまったり、痛い目に何度も遭うことで、肌身で感じるようになりました)


そういう視点で見ると、優れた造り手さんには、いろいろと共通する優れた特徴がある気がします。それはまた次回—–。

ではでは。