フランス旅行

なんとNEXT5で、フランス旅行に行くことになりました。
8月末から、ブルゴーニュ地方を中心とした視察旅行です!

我々も契約栽培等が増えて来たりと、酒造りだけでなく、農業についても
見識を深めなくてはならないようになってきたので、
みんなで、ワイナリー巡りのためにフランス旅行をしてみようということになりました。

さて今回の目的地ブルゴーニュ地方。
この地方は、小さな農家が密集した地域で、実に複雑。
そのあり方は、日本の地酒の世界に似たような世界です。


*同じく有名な銘醸地にボルドーがありますが、
こちらはブルゴーニュとは、ちょっと異質な地域です。
アメリカ~イギリスのワイン商やジャーナリストたちが育てメジャーとなった地方で、
ビジネス的に成功した大規模な造り手が多いところです。

さて、ワインと違って、日本酒の酒造りについて。
これは、農家がやるものではなく、米問屋みたいな「余剰米」の持ち主がやることでした。
ビールもそうで、大麦農家やホップ栽培者が、ビールを造るわけではありませんよね。
穀物酒は果実酒と違い、その原料の流通性、保存性がいいので、分業化しやすいのです。

(ビールや、パン、うどんなど、穀物原料の製品は、一般的に流通性が高いため、
現代では、無用にグローバルすぎるスタイルになりがちですね。
穀物は、大きな耕作地があって合理化されているか、あるいは人件費が安い外国のものが、
バンバン輸入可能なので、価格も激安になります。
関税の撤廃で、果物は生き残っても、穀物は生き残れないのでは? といわれる所以です。

上記の麦系統の飲食物は典型です。輸入原料が当たり前で、国産は実に珍しいです。
例えば、オール国産原料でビールを造ったら、かなりお高い代物になるでしょう)

さて、本題の米についてですが、日本酒だって、ビールみたいに、外国産米で造っても、
別にかまわないのです。
*例えば、海外では現地生産で、現地の米で造られています。

日本国内で、外国産米での醸造は、今のところ聞いた事がありませんが、
単に誰もやっていないだけです。(米の高関税のため、外国産米はあまりにも高価になってしまうため、使用するメリットがないんです。
なにしろ、30キロで1万円以上の関税がかかるんです。このため、いまだかつて使用例はほとんどないと思うんですが—–)

しかし、これから米の関税が低くなるか、撤廃されると、当然のごとく
使おうとする蔵も出てくるでしょう。カリフォルニア米は、なかなかおいしいと聞きますし。



このあたりをもう少し掘り下げてみますと——

日本酒造りでは、酒米という食べるには適さないが酒造りには向いた値段の高い米が
あります。山田錦とか美山錦とか五百万石とかですね。

一方で、フツーに食べる米である一般米も使われます。こちらは酒米より基本的には安いです。
ひとめぼれ、あきたこまち、ササニシキ、コシヒカリなんかでも酒は造られるわけです。
さらにこうした一般米の一部は、「食用に使わない」という題目で、加工業者が安く買う事ができ
ます「加工米」というものです。

加工米/一般米は、酒米に比べて価格が安いので、普通酒や本醸造といった、コストパフォーマンス重視の格下の酒に使われる事が多いです。(蔵によっては高級酒にも使用はしますが)

このため、今後、海外の米も使われるとしたら、当然ですが、普通酒などの経済酒や、合成清酒など、かなりの低価格酒のところに、まずは使われるでしょう。


現状、米には778%の関税がかかっています。
ありえないと思いますが、仮に、これが全部撤廃されたら、
米の価格が崩壊し、ほとんど外国産米におきかわるのでは—-と思います。 
超高級ブランド米をのぞいて国産米など誰も買わなくなるかもしれません。

酒も、このようなカリフォルニア米を使用して造れば、もっと安くなるでしょう。
今でさえ、全国のスーパーでは、3リットル千円以下などという、
ちょっと想像もつかない安値で売られている清酒も少なくはないのですが、
米の原価が1/3なんかになれば、単純計算で3リットル300円になったりして??
笑い事でなくありえますね。

また、米の原価が安ければ、「安い特定名称酒」もオンパレードになったりして。
(そこまで削る事ができればの話ですが)精米歩合40%はあたりまえ。
35%とか、25%とかまで、どんどん削りまくって、
とんでもない低い精米歩合の「コスパに優れた」大吟醸とか純米大吟醸が、ガンガン
スーパーやコンビニに並ぶかもしれません。

こーゆーのも、支持を受けるかもしれません。とにかく米を削れば酒は
キレイにはなるので。単に「飲みやすい」「雑味がない」とかのレベルの味の面だけで言えば、
いわゆる専門店に並ぶ手間ひまかけた地酒が、一元的な味覚の評価では敵わなくなってしまったりしないことを
祈るばかりです。

チリやオーストラリアのワインにも、超激安でけっこう旨いのがありますが、
あんな感じかなあ—–。もちろん日用品の品質レベルが上がるのは、喜ばしいことではあります。しかし、すべてがそれでは困りますね。


市場の動向はあくまでもそのニーズが大きな主導権を握ります。
大方の趨勢、主流のニーズの流れとしては、常に「コストパフォーマンス」が
最優先でしょうから、全体的には、外国産米を積極的に利用し、価格をさらに圧縮する
ような方向へ流れると思います。

しかし、地方文化と共存して生きてゆくことを選んだ地方地酒蔵の場合は、非常に厳しいですが、
そのような世界で闘うわけにはいきません—–。
「酒」をして単なる「飲み物」としてだけ売るのでは、規模の戦いに巻き込まれて、
淘汰されてしまいます。
地方の蔵は、酒を通して、実は、固有の地方の、固有の蔵の「文化」を届けることで
成り立っていくのではないかと思います。

そもそも酒に限らず、あらゆる「地方文化産業」は、その地方ならではの「個性」を武器にするからこそ、細々とでも存続していけるのではないでしょうか。


そういう意味で繰り返しになってしまいますが、
私にとっての地酒は、「おいしさ」という飲料的価値ももちろん非常に大事ですが、
それと同じくらい文化的価値というか、倫理的価値を強く問われる代物になるだろうと考えています。



そういう意味で、ブルゴーニュに旅行することは、我々にとって大変価値のあることです。
今や、フランスを代表する輸出産業になったワイン。そのナンバーワンのブランド力を
持つブルゴーニュも、30年くらい前までは、それほど影響力のある産地ではなかったといいます。


当時は、もっぱら、問屋(ネゴシアン)が農家達から原料を買い占めて醸したり、あるいは出来上がったワインを買って、いろいろとブレンドをして出荷していました。
もっぱらコストパフォーマンスを追求した造りをしていたようで、あくどい問屋においては、ワイン法を無視したようなことも行われていたようで、問題にもなったようです。

これが、オイルショックのために問屋の経営が立ち行かなくなり、
多くの農家が見捨てられることになり、ここから、すべてが一転しました。
問屋なしで生計を立てる必要に迫られた農家は、仕方なく自分で、自分の畑のブドウだけで造った酒を詰めて、自ら販売し始めました。これがいわゆる「元詰め」というものです。

ブルゴーニュは細分化された細切れの農地が多い地域です。
このため、自力でワインまで造ってもたいした量にならず、手間ばかりかかります。
それでもなんとか家業を運営してゆくには、共感してくれるお客さんを選び、
醸造家の哲学や手間ひまや、自然環境や原料の独自性を強調し、
それによって生まれる「画一的でない個性的な味わい」といった「原価に反映されない」価値を理解してもらえなければ、そもそも経営が立ち行かないのです。

そういう意味ではブルゴーニュの醸造家たちは、徹底的に自らの生まれた土地に、価値を
見いだそうと闘ってきました。
例えば、ピノノワールという古代の品種のブドウに特化すること—–
土地や土壌の特徴と魅力を分析して、その価値を深く掘り下げて、訴えること—-
農業に関わる倫理的側面においても、早くから循環型農法を提唱し、エコロジーの側面からも
アンリ・ジャイエ氏などのようなリーダーを輩出してきました。
このような、忍耐深い積み重ねが、今のブルゴーニュを、世界最強のワイン産地として
足らしめているのかもしれませんね。

我々、日本の地方の酒蔵にとっても、ブルゴーニュに起こったことは、実に勉強になる例で
あると思います。

実際、今、多くの酒蔵が、農業に関心を示しています。
直接「農」に携わってはこなかった、つまりもともと大地主や問屋業など、中間流通業者的立場をルーツに持つものが多い我々蔵元(つまり、農地から人材や原料を調達して最終製品だけを造っていた)が、今、はじめて、農業の様々な危機を理解し、農に回帰する動きを見せ始めているのです。

また農家サイドにも動きがあって然るべきです。さらなる付加価値を自ら得てゆくため、
積極的に&合法的に、農家が自ら酒造りを行ってゆく時代が、近いうちに来るかもしれません。
どぶろく特区も増えてますし。
いずれは、我々酒蔵を飛び越して、深く高度な教養を携えたアンリ・ジャイエ的な
カリスマ農家が、マイクロブルワリー的な酒造を行い、ボトル一本数万円で世界で売買される—-。とか?

話が飛びましたが、ともあれ。
今は、「酒造りする蔵元」が取り沙汰されていますが、将来的には、
「農業する蔵元」が当たり前の存在となる—-なんて時代が来るのでしょうか。

なにしろ、TPPの次第では、日本の稲作農業は、たいへんな事態に追い込まれてしまいます。
日本酒は、日本の農業、地方の農業を救いうる重要な付加価値産業であります。
いざとなったら我々蔵元も、動かなくてはなりません。

日本酒も、日本の農業も、学ぶべき事、やるべき事は本当に多いと気づかされます。
それゆえ、伸びしろも多いのですから、これはありがたいことであります。
悲観的にならずに進みたいものですね。

フランス旅行の話は、またご報告させていただきます。
ではでは。