酒造りは何に似ているのか

いろいろと製造内の配置変えがあって、現在、私は、もろみを見ています。
ここが当蔵のメインの仕込み蔵。温度管理ができるサーマルタンクというもので仕込んでいます。
普通酒~純米まで2000kg総米というサイズ。
吟醸は1500kg、大吟醸や、実験酒、特殊なお酒は750~400kgという感じです。
まあ、平均的なサイズではないでしょうか。

$蔵元駄文-仕込み蔵

写真で見ると、どことなく、「AKIRA」ぽいような気が? パイプがうねうねしているし。
外から見ると、築160年以上(先祖が酒造りを始める前からあったので、よくわかりません)
の白塗りの蔵ですが、中身はこんな感じです。

さて、もろみ担当になって2週間くらいですが、
馴れない仕事でへばってます。麹と違って、複数のものをゆっくり進行させるのが仕事なので、
なかなか大変です。麹は、短期間で、それだけを造り込む仕事ですが、
もろみは、逆に、25~30日といった期間、次々と仕込まれてくるお酒たちを、
目標となる酒質に合わせて、ゆっくりと育てて、仕上げてゆく仕事です。

結論。もろみ屋は、病院で入院患者を見ている
看護士の仕事に似ているような気がします。(無論やったことないですが)

かねてから酒屋の仕事は医者の仕事に似ているのではと思ってましたが、

まず麹屋は、明らかに、外科医タイプの仕事ですね。泊まりがけで、数時間ごとに見回りし、
技術を駆使して適切な仕事を加える。麹は、2日間に渡って作成され、
床/棚という二つの期間に区切られますが、
特に「棚」の日の夜は、眠れない「手術」の時間です。

酒母屋は、新生児病棟の看護士でしょうか。酒母は、酵母の培養期間で、
もろみよりもはるかに展開が早い。しかも山廃など、複雑な手法を必要とするものも
あり、煩雑ですが、タンクのサイズはちっぽけで取り回しやすく、
なんだかすごいパワーあふれるものを、手間ひまかけて世話している、という感じでしょうか。

もろみは、—–老人介護をしているような気がします。
言い方は最悪ですが、背丈3メートルくらいの、
巨大な老人の終末医療にたずさわっているような錯覚に陥ります。
毎日、もろみの比重(ボーメ/日本酒度)を計りますが、
あれは糖分の割合を計測しているようなものだから、つまり、血糖値を見ているようなものです。
アミノ酸や酸度も計測しますが、あれももろみの体液の構成を見ているようなものです。
品温は体温ですし、ピルビン酸という酵母の生命力を計測して、「搾り」の日を予想したりもします。
ピルビン酸が尽きると、酵母は死にますので、その前に搾らなくてはなりません。

実際、もろみをやっていると、「医療ミス」にも似たことが起こったりもします。
間違ったもろみに、水を加えたり、麹を入れたり、
米を入れたり、はては搾ってしまったり—-
仕込みは、添/仲/留という三段仕込みという手法で行われますが、
ぼやっとしてると、今日はどれに添? どれが留? この酒なに? 本醸、純米?
みたいなことになります。

で、先日、濃いもろみを薄めようとして、間違ったもろみタンクに水を
入れてしまいました! 
ということで、こうした医療ミスの再発の防止のため、病院みたいに
カルテを造ってみました。


$蔵元駄文-カルテ