出品酒チーム経過報告6

ついに本日、ラストの鈴木杜氏×津川のチームの仲仕込みが
これから行われます。そして明日は、留仕込み。
これで、出品酒チームのすべての仕込みが終了します。

蔵元駄文-杜氏組
↑(杜氏チームの添の蒸米の温度調整中風景)

今のところ、古関×津田(スキンヘッド)チームは22日目。
もはや、全もろみ期間3/4にさしかかりますが、米の後溶け(軟質米などでよく起こる)に苦しんでいるよう。
いわゆる酒屋用語で「キレない」状態になってます。
どーゆーことかというと、これは酵母のアルコール発酵能力を超えて、米の溶解や糖化が上回って
しまっているということ。そうすると、アマーイ酒ができるわけですね。
例えば、米がよく溶ける現象は、

もろみの温度が高い/麹が強い/溶けやすい性質の原料米/米を磨いている/米を柔らかく蒸す

などの原因によって起こります。
今回は「酒こまち」という、もとから溶けやすい原料米(軟質米)を使用していること、
それも40%とかなり磨いていて、さらに溶けやすくなっていることが最大の原因でしょう。
今の鑑評会出品酒は、「めちゃくちゃ甘くてなんぼ!」ですから、
さほど甘さは気にしなくてもいいのですが、米が余計に溶けすぎると、
同時に雑味が出たり、味が重くなったりしてしまいます。
コンテストで気に入られる酒は、
米をあまり溶かさないでも綺麗な甘みが出ている酒、つまり、糖化率の良い酒が望まれるのです。
ここからはなんとか溶けを抑制して、もうひとがんばり!



次。
伊勢×森川(新屋出身)チームは、諸処の事情から、伊勢くんが管理を取り仕切ることになって
いますが、現在16日目。こちらは、かなりの低温発酵のため、アルコールが予想よりも出ていないのが悩みでしょうか。たいへん美しい酒で、最高ボーメ(米の溶け具合を示す指標)は
相当低い。ちなみにこのボーメの数値は、6しかでていないません。
よく言えば、昔のキレイ目の大吟醸みたいです。最近は、ゴージャスな大吟醸の受けがいいので、
トレンドからはやや外れているかもしれません。

実際のところ、ボーメ6は、当人達にとっても低すぎる値でした。
もっと溶けるだろうと思って、米に水を吸わせず、高い圧力で蒸米を蒸したあと、
冷たい外気に何時間も米をあてて、米を溶けにくくした(=自然放冷)わけです。

すると見事に溶けない。溶けなさすぎたわけです。
美郷錦は、山田錦(溶けやすい米)と美山錦(溶けにくい米)のあいのこで、
「軟質米」というには、ややビミョーな性格の米です。
きっと、これからもろみの中でも、そんなに米は溶けていかないだろうということが
予想されました。

普通、こうした時、対策としては、あんまり酵母の数を増やしたり元気にして、
溶解/糖化より、発酵が優先するのは防がないとならないです。
ボーメが低い=糖分が少ないので、たくさんの元気な酵母がそれらをあっという間に
喰い尽くしてしまったら、酒は荒っぽく、辛ーくなってしまいます。

つまり、もろみは低温でじっくりとひっぱる。
—–というスタイルに出たところが、酵母の立ち上がりをやや抑えすぎて、
今度は酵母が少なすぎる状態に。
あまりに酵母が少ないと、アルコール発酵自体が緩慢になりすぎ、
必要なアルコール分を生成する前に、酵母は途中でへばってしまいます。
現在、アルコールは12%未満。酵母の増殖はほぼ完了してしまいました。
通常、16日目にアルコールが12%未満ということは、相当低温でもろみを運んだということ。
酵母の増殖率は低い。アルコール生産能力も低そう。
しかもこの酵母は、「六號改」という香りの良く出る、変種の酵母なもんですから、
普通の「六号酵母」より体力がない。ちゃんと17%までアルコールが出てくれるか?

話は飛びますが、この今回の状況が、一般的な「大吟醸」
つまり「アルコール添加がされる普通の大吟醸」(「純米」がつかない「大吟醸」)
を造っていいのだったら、たいして問題にはならないのです。
なぜなら、アル添大吟醸は、アルコールが15%中盤から後半でアル添して、
17%台まで持っていきます。

途中でへばってアルコールが出なくても、たいして問題ではないわけです。
伊勢くんのこのもろみでも、いくらなんでも15%半ばまではアルコールは出ます。
また、前述の古関君のチームの悩みのように、米が溶けて切れなくなっても、
アル添すれば問題解決。いきなり酒は辛く、淡麗になって、日本酒度もー5から+2~3まで
ひとっとびです。

ただし、純米造りでは、自力でアルコール17%周辺までもっていかないとならない。
伊勢くんのもろみは、そこまでアルコールが出るのか—-?
アルコールが低いと、「風格」「ボディ感」が圧倒的に損なわれます。
市販酒なら、飲みやすく、アルコールは低い方がいいですが、
飲み込まない「利き酒」しか行われないコンテストでは
ゴージャスさ、押しの強さ、インパクトの面で、不利になるのです。

さて、この美郷錦出品酒ですが、
仮にアルコールが、必要量出なくても、アルコール以外の呈味で、ボディ感と呈味性を形作り、
バランスの良い酒を造ってほしいところ。

しかし、伊勢くんも古関君も、アル添が可能だったら、ここまで悩んでいないのです。
これが「純米」を造ることの難しさ。あとで、大量の醸造用アルコールを用いて、
酒を調整することができない難しさなのです。


そして、
私ら、佐藤×三野(寅歳年男)チームは現在7日目。
最高ボーメは7.9、最高グルコースも7.9と、狙いより0.1低いだけの、
ほぼ満足のスタート。設計通りに進んではいますが、唯一の誤算は、初めて使う小型のサーマルタンク(温度調整可能なタンク)の扱いがいまいちよくわからないこと。
正直、予定温度より温度の推移が、かなーり低くなり、「冷え込み」傾向があります。
酒にダメージを与えず、どう温度の遅れを回復させてもっていくか問題です—–

最後に、
杜氏×津川(マッスル)チームは、添、踊と順調に予定品温をクリアし、いよいよ仲仕込み。
かなりの出来の麹を造ってますから、うまく留まで無事に済めば、これは強いでしょう。
さて、さて、これから仲仕込みになります!
またご報告します。