ビールについて

私は日本酒を一番飲みますが、次にビールをよく飲みます。
酒類総合研究所に一年半くらいおりましたが、在籍していた
「技術開発研究室」では、ビール醸造とその研究もメインの仕事としてやっていまして、
私は門外漢ですが、先輩の研究員が造ったビールを舐めさせてもらったりと
基本を教えてもらったりしました。

ということで、飲むビールも、キリンとかアサヒにはなりません。
ほとんどベルギーかドイツなどの、ごっついビールです。
アルコール度数も8~9%が標準で、12%なんていうのもあり、
煮詰めたエビスビールみたいな濃厚さのものもフツーにあります。
スカスカの日本のビールしか飲んだことのない人は、
コップ半分くらいでお手上げになるかもしれません。

でも私は、どうせガバガバ飲まないし、こうした酒のほうが、味わいがあって
好きなのです。あとは、つまるところ、こうした酒のほうが、醸造酒として日本酒に近い。
いいアイディアが浮かぶのでこういうものを好きこのんで飲んでいるだと思います。

それから香り。日本のビールから、えも言われぬ素晴らしい香りを嗅いだことがありますか?
本来、ビールにも強烈な「吟醸香」があります。
特に当蔵の6号酵母をはじめとする、6、7、9、10、14号までが得意とする
酢酸イソアミルなどは、ビールのフレーバーの重要なひとつです。
バイツェンビールなんかには特に、強く出ています。
しかし日本のフツーのビールは、あまり香りはなく、というかほぼなく、
強いて言えば段ボールの臭いが主要な香りだと思います
(これはビールの典型的オフフレーバーで、ぬるくなると、けっこうはっきりわかると思います)。

そうこう考えると、日本の大手ビールは、
きっと日本酒における「普通酒」のようなものなのだなあと思います。
濾過、貯蔵、味調整、均一化のはてに味も香りも相当とられてしまい、
かなりに冷やさないと馬脚をあらわしてしまいます。
何十年もかけて、日本人好みに必死に開発したということはわかりますが、
いろいろと飲み比べるようになると、だんだん、今現在、そんなんでいいのか
という気になってきます。

例えば、第三のビールとか、麦をほとんど使わず、
大豆やら米やらコーンスターチなんかで造っても、ちゃんとしたビールと変わらない味ができる
(と少なくともメーカー側は宣伝していますが)
というのは、どういうことか?
それは、自分のところの旗艦である「ちゃんとしたビール」に対して、とても失礼な
宣伝をしていることになるのでは?

なぜこんなことを書くかというと、ビールが飲まれなくなっているからです。
ばんばん売れていればいいですが、そうはいかない。
そしてこの構造は、かつての日本酒の衰退の軌跡に似通っているから、もの申したいわけです。

飲酒傾向がどうのこうのというのでなく、単純にビールはそのブランド価値を失い、
魅力を失いつつある。古代メソポタミアからの歴史があるビールが、チューハイごときに敗北しかねぬ
有様とは悲しむべきことです。

お上に課せられた目玉が飛び出るほどの酒税が、こうしたことの原因のひとつですから、
無論同情もしますが、だからといって、
酒税を回避してかつ安く売るために、ビールでもないものをビールだなどと言っていると、
我ら業界が日本酒でもなかったものを、日本酒だと言い続けて、結局どうなったのか?
—–同じ轍を踏んでいるような気がします。

$蔵元駄文-ベルギー1

(どちらもベルギーの「デリリュウム・トレメンス」、「オルヴァル」です。前者は、ピンクの象が
トレードマークで、アルコールは9%と濃厚で派手な味わいが気に入ってます。「アル中の痙攣」という銘柄の意味もぶっとんでいて、すごい。
後者は、独特の苦みとフルーティさが癖になる修道院ビールです)

反対に、日本酒における「吟醸酒」が、こうしたやベルギービールやら修道院ビールやら
日本の地ビールみたいな立ち位置かなと思います。
高いし、貴重で量もそんなに飲めませんが、満足度は高く、奥が深い世界です。

ビールは素晴らしい飲料です。
全体的に地盤沈下しようとも、今後、しっかりした造りの地ビールは、逆に伸びて行くのでは
と思うのです。
ちなみに、秋田市には「あくら」という地ビールがあって、私も見学させてもらったりもします。
とてもおいしいので、お試しください。