クローズアップ東北

今日は、風邪をこじらせてしまい、無念なことに休養をとりました。

いきなり寒くなりましたが、みなさんも
お体には気をつけてください。いやー、明日には治さないと。

さて、さきほど、NHK、クローズアップ東北にて、
秋田の酒についての特集番組がありました!!
テーマは、「杜氏の後継者不足」。いや~~
テーマ的にはヤバい微妙なところなので、ハラハラして見ておりました。

登場は、
まずは、おなじみ「春霞」の栗林さん、
来年からは蔵元の奥田さんが酒造りをはじめる(?)という「千代緑」さん、
尊敬します「雪の茅舎」高橋藤一杜氏さんに続いて、
なんと当蔵も、けっこー、取り上げてもらっておりました。
(社員で造っているのは、秋田では珍しくて、杜氏の後継者不足がテーマの
番組なので、まあ、当たり前なんでしょうが)

私も見苦しい格好で喋っておりまして、恐縮です。
麹の夜番の、徹夜明けのままの状態でインタヴューを受けて、
やや朦朧とした、ひどい状況でぼんやり喋っていますが、
話した内容も、なんだか記憶にございません——

(ちなみに麹造りのシーンがありましたが、アレは、実は「亜麻猫」の白麹です。
 フツーの製麹ではないんですね~。
 NHKさんは、「亜麻猫」を紹介するのかと思ってました。
 ちなみにいつもあんなでかい容れ物で種麹を振りかけているわけではないのでご了承を)
 
そのまま翌日、インタヴュー受けたんですが、眠すぎてあのタイミングは辛かった—–。
まあ無難なことしか喋ってなかったんで、ちょっと安心しましたが。

ともあれ、「NEXT5」も、しっかり取り上げられたのは、
嬉しいことでした。
特に、天才麹師 兼 栽培醸造家 「白瀑」山本友文さんが、
自社の「山本」ブランドのため、白神山地の山小屋に、
あしかけ四年ほどこもって、ついに編み出した
想像を絶する新麹技術(山本式多段蒸米乾燥法)も披露されておりました。さすが!!!


えー……しかしながら、
ややうちの蔵は番組の対比構成上、
やや誇大な表現のされ方をしているようなところもありまして、
この場を借りて、いくつか、訂正と補足がございます。

まずは、うちの鈴木杜氏について、なんだかナレーションを聞いていたら、
いきなり瓶詰め部門から抜擢されたような言い回しだったもので、
ちょっと訂正です。

我らが鈴木隆杜氏は、はじめ瓶詰の部署におりましたが、
仕事が真面目で、なにより人望も厚いので、
そこから徐々に、いろいろな仕事を任されるようになり、ついには杜氏になりました。
(これは、私と杜氏が尊敬する、愛知の『蓬莱泉』の有名杜氏、
遠山氏と同じ経歴です)

杜氏就任直前には、記帳と濾過を主にやってまして、
酒造りそのものには、バックアップ程度の関わりだったものの、
酒造の適性は高く、地酒にも相当な興味がありました。
(特に「天の戸」さんの「美稲」の大ファンで一升瓶
ケース単位の大人買いすることで有名だったようです)。
プラス、利き酒能力が高く、酒の高度分析、酵母培養もできたので、
「六號改(ろくごうかい)」という酵母を試験場と一緒に開発するなど、
技術者的な仕事もしておりました。
そういう素養があったので、杜氏に抜擢とあいなったわけです。

あと一点。ナレーションでは、
「サーマルタンクのおかげで通年で酒造りできる」みたいに言っておりましたが、
当蔵では通年醸造は、100%無理です。

(通年で酒造り可能な蔵は秋田で一軒あります。
「夏仕込み」で有名な、小林さんの蔵元「ゆきの美人」です!!
通年、温度が変わらないマンションの一階とという最高のロケーションで、いつでも
フレッシュな酒をリリースしているのです。うらやましい—–)

うちはフツーに、土蔵の蔵の中で酒造りしているので、
三季醸造というレベルです。6月にも、何本か搾られますが、滅茶苦茶に難しいし、
汚染するのではないかと、気絶するほど恐ろしいです。
7~9月は、いくらなんでももろみを扱うのは不可能です。
製造部の休暇もありますし——。


あとは、「改革」により「業績を回復した」というようなナレーションがありましたが、
いや~残念!!
たかが2~3年で回復できれば、こんな楽なことはないわけですね。
ここらへんは、番組では、ちょっと理想的に表現されすぎでした。

(まあ、ともすればこの番組、テーマからして暗~~いムードになりそうなので、
バランス上、希望を持たせる意味合いからも、
こうでも表現しないと、仕方ないところもあったのでしょうが)

うちの場合、全社的な取り組みで、酒は、ここ数年でどんどん良くなってはいる
(というか賛否両論化している?)と思いますが、よかれあしかれ、
経営に反映されるのは、もっともっとずっと先でしょう。

肝心の「改革」といっても、私の立場からもできることは非常に限られております。
現状は、単に、酒造りのスタイルを変えただけです。
まだまだ理想の姿にはほど遠く、改革は20%も終わっていない状況です。

……まあ、テレビでは我々のスタイルは好意的に評価されていますが、
これもまた、実際のところは、いいところばかりではなくて、大変なところ盛りだくさんです。

番組内で、私は、確かに、朦朧とした感じで、
「現代の社会生活に、酒造りのほうを合わせないと、造り手がいなくなる」
と発言しましたが、一方で、そんなレベルでは凡百の造り手しかできない
ということも言っておいたほうがいいかもしれません。

(テレビでも「原則」とくっつけてくれましたのですが)
だいたい酒造りが、「8時半から5時半」でかっちり毎日終われば、
昔の人はあんなに苦労はしていません。

杜氏、副杜氏は当然ですが、
もろみ担当の女の子も、仕事にまだ馴れてないので、毎日の記帳などの
業務で、遅くまでかかっていることもあります。

でもそこまでしないと、酒造りは上達するわけがありません。
そんなに甘い世界ではないし、勉強を怠れば、すぐに、もっと情熱のあるものに
追い抜かれます。通販で買った地酒をちびちび大切に飲んで、
酒造講本読みながら寝るような人間でないと、
そもそもこの業界に最後までいるのは厳しいのではないでしょうか。

だから、自分でテレビで言っておいてなんですが、
若者を集めれば、現代的な酒ができるかと言えば、これは危険な勘違いを招くと思います。
単なるバイト気分のものが集まったって、
半端なルーチンワークしかこなせず、凡酒しかできないでしょう。
(どこの業界でも同じですが)

同じ意味で、「NEXT5」の売り文句の「造る蔵元」というキーワードについても
みんなが鵜呑みにすべきではないところも、実はあるのかなと思います。
蔵元が酒造りをすれば、必ず酒が良くなるかというのも、それは言い過ぎです。
蔵元全員に酒造の適性があるとは、限らないからです。

経営センスがあるものは、経営をやるべきで、
酒造センスがあるものは、酒造をやるべき。
酒造のセンスも経営のセンスもあるものは、どちらもやればいいし、
どちらもなかったら、どちらもやってはいけない。

*なにしろ、昔、酒屋は、「杜氏」と「番頭」が動かしておりました。
「番頭」がいなくなって、蔵元は経営の責任をとるようになりましたが、
 もちろん、経営はよくなるとは限りませんでした。むしろ逆です。
 今、それに加えて、「杜氏」の仕事まで行うようになる—–? 冷静に考えれば
 怖いことです。 

ただ、蔵元は経営の責任を背負っているから、仮に、そこまで酒造センスがなくても、
若さとまともな神経があれば、少なくとも、お客様の心をとらえるため、
一生懸命、考えた酒造りはするでしょう。それは、現状よりは、いくらか「マシ」では
あると思います。
ただし、ある線以上の戦いとなると、当たり前ですが、
スポーツや芸術・芸能と同じく、センスの戦いとなることも
忘れてはいけないと思います。

ということで、
少なくとも、昔も、今も、きっと酒造りに必要なのは、

センスと根性です!?


えー、つまるところ、今回の番組は、蔵元は、社会の構造変化に合わせて、造り手を確保するために、
雇用形態を変えていかなくてはならない、というようなテーマだったと思います。
確かにそれは一理ありますが、それだけでは、うーん? やや不十分かと思う点もあるのですね。

我々の場合の本音は、
私や杜氏、副杜氏などの、責任者&酒質設計者が、なんらストレスなく、
理想の酒を、スピーディに実現するために、
できるだけ若く(杜氏が指導権を100%発揮するため、杜氏よりより若いほうがいい)、
できれば、酒造適性のあるものの集団を必要としたが、
それはもはや、既存の蔵人集団という形態では実現され得ず、新しい形態を必要をせざるを
得なかった、というのが本当のところです。

ですから、別に当蔵は、社員制度にしたからといって、
現代社会におもねって、酒造りそのものの敷居を下げて行ったということはありません。
それでは、酒は良くなりようがありませんものね。

あ、でもこんなとこまで突っ込んで描写したら、
救いのない番組になる?
番組としては、あれで良かったのでしょうね!

この業界に一番必要なのは、元気ですから。

うわー具合悪いのに、またブログが長くなった。
ではでは!

ps.
「NEXT5」The Beginning 2010
ついに搾りまでカウントダウン!
予想に近い仕上がりになってます。期待大!
14日に上槽予定です!