なまざけについて

いやー修羅場ですね!!
一年で一番寒い時ですから、高級酒仕込みまっただ中でございます。

ぽつぽつ仕上がりつつあるものもあるのですが、ヤバい!
ラベルの用意をしてない。もうそろそろ完成してないと、そもそも、
酒の発売ができない!

県南のドカ雪のごとく、いろいろと仕事が降り積もってくる。
最近は、ちょっと人前で話せ、というような依頼がけっこうあります。
「県民の皆さんに、我らがNEXT5の意志を伝える良いチャンス!」
—–とばかりに引き受けていると、どんどん仕事が遅れる。

新酒ができても、発売できない??



いや。頑張って出します。
もうちょっとお待ちください—–。



蔵元駄文-立春朝搾り

ご報告が遅れましたが、2/4は「立春朝搾り」という行事がありました。
当蔵も参加する「日本名門酒会」という団体のイベントなんですが、これが大変なんですよね。

2/4は立春の日。このめでたい日の早朝に搾られた、搾り立てそのまんまの酒を、
酒販店さんがお手伝いに集まって、ラベルを貼り、神社で無病息災・商売繁盛を願って、
お祓いを受けて、持ち帰って早速売るというイベントです。

こんなことを書くとアレですが、
私は、あまり「生酒」を好みません。

あまりにも変化が早く、
だいたい荒っぽいか、それとも甘ダレているかのどちらかなんですよね。
キレがいい生酒なんて、あんまり、お目にかかりません。

もし自分のところの「生」が長期間店頭で売れ残っていたら?
味、どろどろ。考えるのも嫌な話です。
ということで、「生」、あまり出さないんですよね。当蔵は。

本当に「生酒」っていうのは、味が、すごいスピードで変わっています。
例えば、「出品酒」なんかで、火入れのタイミングをみはからうため、
毎日、利き酒をすることがあるんですが、
マイナス5℃の冷凍庫に入れているのに、味が変わってゆくんですよ。

一般的には、火入れしないと、酵素の作用で、甘みが増し、味も濃くなります。
(酒に残存した糊精やオリゴ糖がブドウ糖になる。
また、タンパク質やペプチドからは、アミノ酸が生成される。
他、さまざまな酵素が活動して化学反応が起こり続ける)

他に、いわゆる「生老ね」という生酒特有の香り(木や草、ハーブ様の臭い……
当蔵では「虫カゴの臭い」と呼ぶ)も、酵素反応で生まれます。

酵素はマイナス7℃でも活動するので、冷蔵庫では酒の変化は防げません。
氷温庫でも難しい。ということで、火入れ殺菌しない限り、酒は、どうしようもなく
ハイスピードで変わり続けていくのです。

となると、生酒の出来というのは、造り手の意図の範疇にはない部分も多いのでは
という気がします。

うまい「生酒」があったとしても、毎日味が移り変わるものなので、
偶然の成り行きで、旨かったりまずかったりすることがあり得るような気がします。

そういう点で、私としては、(「生老ね」が嫌なのもありますが)、
他蔵の酒を飲んでも、本当のところの実力がわかりにくいので、
あんまり飲まない/参考にしないのです。

*ただし、すごい生酒というのもあるんですよ。

 まずは、ほとんど「生老ね」というオフフレーバーが出ない生酒。これは「ゆきの美人」の
酒がそうなんですね。どうなっているのやら? すごすぎます。
 こうしたタイプは、生酒なのに、あまり甘ダレず、飲み時が長期間に渡るような、頑丈な生酒で
あることも多いですね。酸味がしっかりあって軽快な生酒が、あてはまるようです。

 あとは、もう完全にイってしまった生酒。生のまま数年経った、とか。
もはや、通常のオフフレーバーではないし、味も甘ダレとか、くどいとか重いとか、
そういう次元を超えて、「醤油かけハチミツの日本酒割り」のごとき、
未体験ゾーンに突入しているので、こういうキワモノも、素晴らしい!




ということで、確かに、一般的には「生酒」は、人気です。
たしかに、旨味が最高潮に達した生酒もすさまじいポテンシャルを発揮します。
期間は短いでしょうが、これに遭遇できた場合は幸運です。
生酒で日本酒ファンになられた方というのは、はじめにこのような酒に出会ったんでしょうね。

一般的には、生老ねが気にならない人で、とにかく濃い酒が欲しい!! という人には、たしかに
生酒は、おすすめです。

でも、一時期ブームになった「無濾過生原酒」。あそこまで、狂信的に信奉するほどのものでもない。
きっと、「生酒」が好まれる最大の理由は、きっと市場のほとんどを占める火入れ酒が、
まずいからなのでしょう。

いわゆるフツーの酒というか、そこらに置いてある日本酒は、
濾過しすぎで味がない、香りもぶっとんで酒くさい、すでに搾ってから長らく経って老ねている—–
そういうものばかりです。
こういうもので、市場が埋め尽くされているから、その反動なのでしょう。

生酒だったら、濾過回数は少ないだろうし、基本は限定品だし、
蔵でも店舗でも冷蔵管理されているし、
搾ってからそんなに長くは経っていないので、相対的にフレッシュだから、お客様にとっての
満足度が高いのだろうなあと感じます。



脱線:
ただし—-生酒なのに、時々常温で陳列している酒屋も、秋田ではちらほら—-。
店員さんには、何回か、注意させていただいているのに、なかなか治らない。

たぶん、
<大手生ビールは、常温OKなのに、なぜ日本酒の生は常温NGなのか???>
これが難しくて、わからないのだと思います。で、一緒な感覚で、扱ってしまうのではないか
と思っています。

解説すると。

ビールは、始めに、高温状態で、麦芽の酵素で麦を糖化するんですが(つまり「高温糖化」)、
この糖化工程で、温度を70℃近くまでぐーんと上げて、
火入れまでしてしまう。こうして、酵母によるアルコール発酵がはじまる前に、
すべて酵素が失活している(単行発酵)のです。

あとは、添加した培養酵母が、糖液の糖分と栄養を食い尽くして、アルコールが5~6%になったら
搾る。

(大手のビール製法は、濃縮麦芽を使用するので、相当濃い糖液ができます。
このため大量にアルコールが出ますので、これをどかんと水で薄めます)

こうしてできたビールには、酵素はないので、あとはしめたもの。
詰めるときに、残った酵母と雑菌を取る、目の粗いフィルター<メンブランフィルター>
をざっと通すだけで、残存のビール酵母による二次発酵や、乳酸菌&酢酸菌などによる腐敗は防げる。

ということで、大手生ビールは、常温放置でもオッケーなんです。
ただし、地ビールなどで、メンブランフィルターかけてない場合、雑菌が含まれているので、
要冷蔵が必要ですよ。





以上。
ああ面倒くさい—-生酒。
別に、生でなくても、絶妙に「瓶燗」&「急冷」し、冷蔵庫に直ちに格納された場合は、
「生酒」と見間違うくらいのフレッシュさを維持することも可能です。
(蔵は、生老ねを絶対に出さないよう注意しながら、味が整うのを待って、
新鮮さを保持したまま火入れをするのです)
ということで私だったら、やっぱり火入れと貯蔵のしっかりした蔵の、
火入れ酒を買うんですよね。


こういうわけで、当蔵としては珍しい「生酒」なんですが、
今年も無事に、搾り立て生酒である「立春朝搾り」は完成、発売となりました。

ちょっと荒くて渋く、甘みもまだ控えめで、さっぱりしてますが、
切れの良い佳酒になったと思います。

えー—— 今時分は、あんまり冷やさないで楽しんでいただきたいですね。
というか、すみませんが、あまり搾り立てで甘みを載せるのに長けておりませんで、
(「NEXT5」の酒は、小林さんが監督したので例外!)
うちの搾り立ては、しばらく常温くらいで飲まれるのがいいかと—-。
あるいは、来週か再来週あたりに飲まれてもらえると、最高ですね(言い訳)。



それでは皆様の商売繁盛を祈念しつつ—–
また次回。


ps.
「見えざるピンクのユニコーン」は、他のチームのもろみ同様、
中間折り返し地点を過ぎました。
ファットでゴージャスな味の「α」のほうは、発酵停滞気味で、今が勝負どころです。
キレイ目の「Ω」は、酵母が元気。
また改めて報告させていただきます。
ではでは

蔵元駄文-αとΩ