搾りのタイミング

繁忙期は続きます。また一瞬で数日が過ぎてしまいました—–。
もろもろ雑務の合間に、なんと鈴木杜氏の「梨花 Ⅱ」が上槽に!

杜氏さん本人から、あと数日は余裕ということを聞いていたのですが、
突然「もう搾る」と言い出して、スピーディに袋吊り。
素晴らしい判断。
搾りは突然やってくる——。
写真を撮る暇もなく終わっていました。残念!

(酒は完璧に近いもので、感服のいたりでした。いや~、この梨花が
あれば、今年もコンテストでは、けっこういい戦いができそうで、ほっとしました)

杜氏さんによると、
搾りのタイミングを見計らっていたところ、
アルコールが17%を超えたとたん、もろみが限界に一気に近づいたようです。
「香りと味に微妙な変化が訪れた」ということ。

まあ、上槽タイミングはいつもこういうものです。
酵母活性(ピルビン酸)はチェックした上で、あと2~3日は余裕で
いけるだろうと思っていても、
いきなり、もろみの香りが雲ってきたように感じられ、即上槽!ということも
少なくありません。

結局、データや分析数値では推し量れないところばかりなので、最後は造り手の
感性に委ねられるわけですね。

しかし、搾るときは、なんだか、やっと酒ができる歓びと、
もろみの期間が終わりを告げる物悲しさが、ないまぜとなった気持ちになります。
臨終と誕生の瞬間が同時に来たような気分です。
実際、上槽は、酵母たちの葬式であり、酒の出産の儀式といえるかもしれません。

「夏子の酒」なんか見ると、夜中に、搾りのタイミングが来て、「今が頃合いじゃ」とばかり
上槽し出すというシーンがあったと思うのですが(うろおぼえですが)—–、
良い上槽のタイミングとは、どこにあるのか? これは
すべての造り手が悩むところではないでしょうか?

搾りが早すぎて、酵母が元気なまま上槽すれば、無論のこと、その酒は
資化されてない発酵中間物質が多いため、劣化しやすい、未熟なものになります。

かといって、酵母が弱り寿命を迎えるまで発酵を続けさせてしまうと、これも危険。
酵母の死体が、麹の酵素で分解されると、香りが悪く、味も重くてくどくて、
垢抜けないひどい酒になってしまいます。
(酵母はもろみ末期、自らの出したアルコールでダメージを受け、死にやすくなって
いるのです)

なので、最高の上槽タイミングは、酵母からまったく元気が失われてはいるが、
一方で(あまり多くは)死んでいない状態です。

これ、言うのは簡単ですが、この判別が、たいへんに難しいのです—–

発酵を進め(アルコールを蓄積させ)、
酵母を死ぬ一歩手前まで、ゆっくりとじっくりと弱らせて、
そのまま死にもせず・生きているとも言えぬ、休眠状況に持ち込み、
そうして上槽作業を手早く行う事で、酒から酵母を取り除く。

なんだか、「酵母の安楽死」をいざなっているようで、
確かにものがなしいわけですね—–

しかしこうした絶妙のタイミングで搾られた酒がうまいのです!





psついに、私たちのチームの出品酒は、
あと3日ほどで、Ωの上槽です!(ただしいきなり変更になる可能性大!)

もはや2つのもろみは完全に別物と化してしまい、
甘口のαのほうは、ぜんぜん進行が遅れていまして
搾りは、5~6日あとになってしまいますが、こちらも最後まで
感張り抜きます! 


$蔵元駄文-2つ