先日、「蔵元交流会」という団体の総会が、秋田県横手の山内村にて開かれました。
蔵元交流会のテーマは「日本酒とは純米酒である」「熟成した純米酒をぬる燗で楽しむ」ということ。
一日目は、「冷や用の酒/燗用の酒の利き酒と評価」ということでした。
結果を見せてもらいましたが—–
(追記 : どうも、以下の利き酒評価の内容については、非公開だったらしいので、知らずに書いてしまいました、すみません・・・)
「熱燗は嫌い宣言」で有名な「ゆきの美人」が、燗部門トップ!
度肝を抜かれました。
確かに「ゆきの美人」純米は、燗にも向いた酒です。特にこのロットは、
ほどよく円みを帯び始めてきた味で、かつ透明感ある酸が効いた素晴らしい食中酒ですから、燗すると良さがさらに引き立つでしょう。
とはいえ今回、全国から様々な銘柄が山のようにあった(出品蔵元は45蔵くらい)
のにかかわらず——燗のイメージがない「ゆきの美人」平均得点1.5点。トップ。
これは不思議。
(私の蔵で、地元中心に出している「特選純米」<旧本醸造/酒こまち75%精白>
というお酒も平均1.7点で、点数で言えば上から二番目と、案外評価は良かったので
驚いたのですが、これ、バリバリの新酒。ある程度精白が玄いから、評価を受けたのかな?)
いろいろと考えると、これは、この蔵元交流会に限らず、
あらゆる「燗向きの酒」のテイスティングに触れて思う事なのですが、
「熟成」した酒を出せば出すほど、逆に評価が低くなるような—-そんなことが
時々あるようですね。
熟成酒については、たいへん興味がある私としても、
そもそも「熟成酒の魅力」って、利き酒レベルで善し悪し判断できるのかなとか、
「熟成」と「劣化(老ね)」の違いってそもそも何? とか、
一般的なテイスティング作法で、ぬる燗を利き酒すれば、
欠点が出やすい熟成系の酒のほうが、やはり評価が悪くなるんじゃないかとか、
いろいろな悩みがあります。
つまり熟成酒の判断基準がないと、そしてそれは新酒の評価とは明確に違ったものでなければ、
たとえ、熟成酒/燗向けの酒のコンテストをやったとしても、
全部、良い評価は、新酒のキレイな酒にもってかれてしまうでしょうから、
やる意味がなくなってしまうような気がします。
熟成酒の善し悪しや、その楽しみ方については、技術に明るく、あらゆる酒類に通じ、
かつ舌の肥えた方なんかが、うまいこと壮大な価値体系を造ってくれればよろしいのでは?
と思います。
現在、一般的に求められている地酒の傾向は、
活性炭で味を取られまくった淡麗酒や、劣化した市販酒に対する反動で、
高度な温度管理のもとでのみ品質を保てる、フレッシュ&フルーティ、ジューシーな
タイプとなっています。
で、うちの蔵も含めて、全国で、まあみんなそういうタイプの酒を造る向きがあるのですが、
これは万人受けする一方、ある意味、直感的なおいしさを追求するあまり、
構造がやたらとシンプルで、味覚的に掘りがいのない酒とも言えなくもないです。
日本人は、新鮮なものマニアで、
(高い発酵技術を持つわりに)あまりにも複雑な香味の発酵食品を、
実は好まないという相反する特徴があるような気がしますし、
もとよりシンプルな構造の中にこそ、
美を見出すような独特な文化もありますので、まあ、国内ではこれでいいかも。
しかし国際的な舞台では、発酵酒に求められるのは、
極限まで複雑性を追い求めた上に成り立つ奇跡的なバランスではないかと思います。
これはこれで、発酵食品の醍醐味であります。
多様な微生物が生み出す複雑性こそ、発酵食品の命です。
だから、逆にこんなのはどうか。
いきなり呑んでも良さがぜんぜんわからない。なんでこの酒がこんな高い評価を
されているのかわからない。むしろまずい。なんだこりゃ。
けど、それを理解しようと頑張っているうち、価値体系(文化)を徐々に理解してゆく、
最終的にはクセになってしまう
——そんな酒もまた良いのではないでしょうか。
(外国人が、日本文化を理解せんと、納豆を頑張って食べ続けていたら、ついにハマってしまった、
というような感じでしょうか)
教育や訓練によってやっとわかるような、そういう奥深い大人の楽しみ方ができる
酒の一群もあって良いし、そういう酒こそ、実は高い付加価値つける貴重なお酒に
なり得ると思います。
純米酒の熟成酒。そのぬる燗。
その素晴らしさと魅力、そして価値基準が客観的に、そして体系的に構築されれば、こんな素晴らしいことはないです。日本酒に、大きな武器、付加価値が、そなわると思います。
きっと、今後の蔵元交流会さまの、活動の中で、そういった取り組みがなされていくのではないかなあ、と、熱気溢れる会場にあって、確信しました。
造り手としても、どういう酒が熟成して旨くなるのかなど、いろいろと
研究しがいのあるテーマなので、評価体系と、それに従った新しい酒の設計が
組み合わされば、無限の可能性が広がるのではないでしょうか?
ちなみに私はこの「蔵元交流会」二日目の講演で、「ゆきの美人」小林さんのサポート役として
壇上に上がらせていただきました。
題目は「NEXT5の活動」ということでしたが、小林さんの爆弾発言の殺傷力をいくぶん弱めるための
言い訳的説明係の役割を果たさせていただきました(できたかどうだかわかりませんが)。
その後は、「天の戸」の見学です!
↓
「天の戸」ははじめて行ったのですが、秋田の誇るマルチタレント杜氏である、森谷康市さんの
才気が隅々まで行き渡った、素晴らしい蔵なのだな、と改めて実感しました。
さまざまな手作りの道具がありまして、楽しく酒造りができる工夫が凝らされています。
さらに、杜氏には、農地の案内までしてもらいました。ラッキー。
「天の戸」は、半径五キロ以内の米しか使わないという、
秋田でももっともドメーヌ(自家栽培/自家醸造)的思想に忠実なお蔵さんです。
しかも、今年から、普通酒まで純米化したというからすごい。
(なんと、精米歩合65%の純米酒が、現在の「天の戸」の普通酒です。米は
食用米ですが、こちらも蔵から半径5キロ以内でとれたもの。
なのに、価格は1672円と大盤振る舞い。ぜひ、お試しください)
森谷杜氏と、彼の育成する美山錦の田の模様です。
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小林さんが、田の溝切り用の、エンジン付き自転車にまたがっている様子。
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「天の戸」さん、ありがとうございます。素晴らしい体験をさせていただきました。
そして私も自分のところの田の視察に向かいました。
県立大学に契約栽培を依頼している酒こまちを見に、大潟村の県立大学フィールドセンターへ。
低温が続きましたが、ここのところの晴天続きの気候のおかげで、なんとか持ち直してきたそうです。
とはいえ、今度はあまりに暑すぎるのを警戒しなくてはなりません。
今年の米も高温障害になるかもね—–そしたらどうしよう、
と対策について、稲元教授とお話しました。
こちら、稲の測定のシーンです。
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田んぼには、オタマジャクシ。
草むらには蛙がいっぱい。
こんな尻尾付きのかわいい中途半端なヤツがうじゃうじゃ。
週末の田畑は気持ちがいいものでした。
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そして、Passion 2011。
おととい飲みました。一瞬で飲み切りました。これは買ったほうがいいと思いますよ。
(予約はもう終わってますが—)
これが共同醸造酒の醍醐味なんですが、「ゆきの美人」ではないような何かがありますねえ。
やや冷えくらいの温度で、最高のパフォーマンス。驚きました。
使った事がないだけではなく、いつも使っている米とは、性質が正反対の米(美郷錦)、
使った事がないだけではなく、いつも使っている水とは、性質が正反対の水(一白水成の硬水)、
を用いて、これほどスマートに仕上げるとは。
味わいとしては、硬質米と硬水の組み合わせのせいなのか、
いつもの「ゆきの美人」より、複雑精妙な魅力が加わっているような。
しかも、そこはかとなく、酒に気迫がこもっている。これが素晴らしい。
県内は明後日のリリース。県外は2~3日遅れるのかな。
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お楽しみに。