大吟醸とスーパードライ

え~、唐突ですが。

みんなの党が「原発の是非は国民投票で決めよう」という法案を提出するということ
ですが、たいへんいいと思いますね。
社民党と共産党を除けば、現職議員のほとんどは、原発推進か容認だと思いますので、
このような国民投票法案を出しても、きっと無視される見込みが強いですが、
本来、どう転んでも、大事なことは、我々国民が決めるべきですよね。

あ、管首相、急遽「国民投票法案」の可決を退陣条件に今からくっつけたらどうでしょう?
なんてね。


ともあれ。
本日は、秋田の実力派・若手酒販店経営者がうごめく県南沿岸部へと、
ひさしぶりに行ってまいりました。
やはり同世代の酒販店経営者と話すときは、酒のことも真剣に話しますが、
それ以上に、シリアスなことも題材にのぼります。

お互いこれからどうなりたいのか、
どうしてゆきたいのか、そのために、お互いお互いのため何ができるか、
ひいては、どうやって、お互い日本酒を、秋田を盛り上げてゆくのかなど、
将来に向かったポジティブな話し合いができるのが、嬉しいことでした。

——
と、ここで今日は切り上げようと思ったのですが、
今、珍しくビールを飲んでおりまして、それが「スーパードライ」なので、
ちょっと以下の話題を。

「スーパードライ」がヒットした最大の理由は、日本人好みの、スッキリ感を
うまく表現したからだと思います。
技術的には、コーン・スターチ(でんぷん)というものを、
うまく利用したということに尽きるでしょう。

ちなみに、ビールは副原料の使用が許されてます。(そもそもビールは麦芽だけでは造れず、
ホップというハーブが必須だからでしょうか—-)
ただし、ドイツでは、ホップと麦芽・酵母・水だけで造ることが義務づけられています
(これを「ビール純粋令」といいます)。
一方ドイツ以外ではけっこうユルくて、日本では、例えば、コーン・スターチのほか、
米なんかも使って良いです。

基本的に、麦とホップを主体としてビールを造ると、濃くなります。
日本のビールで言えば、ご存知「一番搾り」とか「エビス」「モルツ」なんかのプレミアム系統の
ビールです。

ところがこうした「ドイツ純粋」系ビール(?)に、副原料としてコーン・スターチ(でんぷん)
ぶちこむと、あら、不思議! いきなり味がスッキリします。

なぜでしょうか?
麦芽には、でんぷん質のほか、タンパク質とか繊維・ミネラル・ビタミン・脂質まで、
ありとあらゆるものが含まれています。このため、麦芽のみを基質にして発酵を行うと、
濃くて様々な風味が入り交じった酒ができるのです。

一方、コーン・スターチは、精製した単なるでんぷん、純粋なでんぷんです。
余分な成分はないので、酵素作用で、全てが糖分に変わってしまいます。
この糖分は、酵母が代謝して、アルコールにほぼそのまま変わってしまいます。

まあつまり、コーンスターチを入れると、そのぶんについては、
(ごくごく単純に言えばですが)純粋なアルコールだけが、
もろみの中で生じるわけです。麦芽の雑多な成分を由来に生じるはずの、
さまざまな副産物が生まれないのです。
日本酒で言えば、アル添したのと結果としては、なんとなく似たような効果があるといえる
でしょうか。

ということで!
副原料にコーン・スターチを大量に使うと、味がすっきりする(というか薄まる。
水で薄まるのでなくて、アルコール以外の成分が生じにくくなって、コクが相対的に
少なくなる)のですね。

これをかなり劇的に行ったという点が、「スーパードライ」のヒットの秘密と言われています。
これ以降、こうした副原料を使うテクニックは、どんどん高度化してゆき、
発泡酒、第三のビール(というかビール風リキュール、というかアル添ビール)、
第4のビールを経て、ついにノンアルコールビール(糖類、酸味料、調味料、甘味料などで構成された ビール風飲料—-)
となりました。これら全部、多くの方が、一向に表示成分内容には頓着せず、
みんな自然に飲んでいるわけです。

ところで。
私は、広島のとある研究施設にいた時、酒にでんぷんを入れて発酵させるという実験に
参加させてもらったことがあります。
その頃、酒税法を改正して、副原料にでんぷん(コーン・スターチ)を認めるか否かという
話題があり、その経緯で、実験をしたのでした。

つまり日本酒でも、「スーパードライ」みたいなものを造ればいいんじゃないか、
という発想だったわけです。

コーン・スターチ(でんぷん)を発酵させれば、高級酒のようなものが、めちゃくちゃ
安くできるようになります。
そもそも、日本酒の高級酒(吟醸)で、あのように執拗なまでに米を削って小さくするのは、
いったい何故なのでしょうか。

そう、米の外層部にある栄養分(ミネラル、脂肪、タンパク質など)をできるだけ
削ぎ落として、これらから生じる雑味を減らすためです。
でんぷんだけにして、純然たるアルコール発酵を行わせ、できるだけキレイでスッキリした
酒を造るために行うのです。

このため、どなたが発案したのかわかりませんが、
「だったら、澱粉そのもの入れればいいのでは」
という、私にとっては短絡的と思える発想が出てきたわけですね。

確かにそうすれば、なにも米を磨く必要がなくなります。
精米歩合10%クラスまで磨いたのと同様、というか、もちろんそれ以上に純粋なでんぷんが
手に入ります。
しかも馬鹿みたいに安いです。そもそも南米のトウモロコシが原料だし。

つまり、こういうものを副原料として認めれば、
ものすごい高価な酒、とてつもなく米を磨いた吟醸酒と同じものが、
とてつもなく安い値段でできるわけです。
「結局、おいしければ、なんでもありじゃない?」
というのが推進派の意図でしたが——

ありがたいことに、
現在に至っても清酒の副原料にでんぷん(コーン・スターチ)の使用は認められておりません。
だから、私は「別に日本酒なんて、おいしければいいじゃん」という言葉を聞くと、
「う~~ん—-」と押し黙って、何も言えなくなってしまうのです。

と、スーパードライを飲みながら回想してみたのでした。