今年の頒布会につきまして

どうも毎度でございますが、
今年も頒布会の季節が近づいて参りました!
例の「社会科見学」的な頒布会でございます!!

さて、当蔵の頒布会は、秋田県内を中心に、もうかれこれ何年だろうか—–
長年継続しておるものですが、実は、私が帰郷した時には、
半ば在庫処理的な、おつきあいの業者に買ってもらているような、
惰性的に続いている企画でした。

しかし頒布会というのは、ひとつのテーマに深くこだわることで、
非常に魅力的なものになりうるものなんですね。
そういうことで、とにかく帰郷して一番始めに、
すべての面でプロデュースさせていただいたのが、この頒布会でした。

始めの年は、帰った直後、住み込みの季節労働者のおじいさんたちと
朝4時起きで酒造りしながら、片手間に時間を見つけては、
ラベルの文章を書きなぐったりしてたものでした。戦争のような日々の中でこなした仕事でしたが、それなりに反響がありまして、翌年からは、よりしっかりと造りこむようになりました。

3~4年目からは、(ついつい勢いあまって趣味的な方向性に走りがちな傾向を
帯びてはいますが)、常に「日本酒の素晴らしさ/奥深さ/多様さ」を、
特に日本酒ビギナーの方にこそ、お伝えしたいという気持ちで、毎年企画しています。

なお、すべての仕込みが、頒布会専用のものです。
毎年、通常の仕込みとはどこかが、あるいはすべてがまったく違う、
小規模の仕込みが6本、この頒布会のためにあてがわれます。
そういう意味では、我々にとってもひとつの技術の成果の発表会的な意味合いがありますね。





ちなみに過去の頒布会の企画内容ですが、

2008年「新政物語」
コンセプト=当蔵の歴史の解説
……毎月のラベルにて、六号酵母と五代目佐藤卯兵衛の活躍を中心に、
当蔵の歴史を連載風に解説した企画です。


2009年「蔵人からの便り」
コンセプト=酒造工程の解説
……毎月のラベルにて、酒造の各工程を、各担当者に説明してもらうという企画。
製造人員を通年雇用の若手に切り替えたための企画でした。


2010年「素晴らしき酒米の世界」
コンセプト=秋田県産の酒米の飲みくらべ
……酒こまち、美郷錦、美山錦、秋の精など、秋田県産米の酒米の単一米仕込みの
飲みくらべ。オール県産米に切り替えたことを記念した企画でした。


2011年「流派対決 in 新政」
コンセプト=醸造方法の飲みくらべ
……現杜氏・鈴木隆(山内流)、現副杜氏・古関弘(能登流)、私・佐藤祐輔(独学=蔵元流)
として、それぞれ淡麗/濃厚/芳醇な3つのタイプの酒を造りわけ、しかも
生と火入れの違いを知ってもらうという企画でした。


2012年「素晴らしき純米酒の世界」
コンセプト=さまざまな製法の純米酒の飲みくらべ
……純米蔵化秒読みの段階に入り、純米造りの魅力を楽しんでもらおうと、
白麹を部分的に用いた酒や、精米歩合が高い(=あまり磨いていない)酒など、珍しい酒を詰め合わせた企画でした。




そして本年度は、


「微生物の世界」


というタイトルの頒布会になりました。
酒造に用いられるある特定の微生物の働きに着目して
その特性を強く反映させた酒を造り、飲みくらべていただく。
またそれら微生物の働きを知っていただく、というものです。


コンセプトは

米を溶かすための酵素を生み出す「麹菌」。
溶けた米の糖分から、アルコールを生み出す「酵母」。
安全に酒造りをするための乳酸を出してくれる「乳酸菌」。
実際のところ酒造りを行っているのは、人間ではなく、彼らと言えるでしょう。
これら愛すべき見えない真の主役たちの存在を感じていただけたら幸いです。

……という感じでございます。



つまり今年から純米酒のみの製造になったし、
酒母も速醸はやめてしまったので、(山廃では乳酸菌・白麹酒母では白麹菌と)
酸生成はすべて微生物の力によって行われるようになりました。

実に微生物さまさまでございます。


当蔵では、微生物さまのお力によってのみ、酒造りがなされる状況となりましたので、
この素晴らしい恩人たちのことを、みなさまに、もっと知っていただきたいというのが
テーマなのでございます。


3月配布(たぶん—下旬には—届くと思います)
第一回は、「麹菌の世界」黄麹 vs 白麹
ということとなりました!

当蔵にしては珍しく、麹をふんだんに使用し、アミノ酸度も高く、やや甘めながら、
がっしりした造りに仕上げた、まさに日本酒の醍醐味、黄麹の本来の魅力が楽しめる酒が
トップバッター。

これに対するのは、焼酎で使われる白麹を使用した酒です。当蔵では、すでに焼酎の麹を
使用した「亜麻猫」という作品があります。
ただし、これは酒造りに用いる麹(総米の20%ほどになります)のうち、
黄麹と白麹を半々で使用したものです。白麹は大量のクエン酸を含んでいますから、
これを、麹の半分くらいの割合で使用すると酸っぱくなって、
酸度が2.2~2.5くらいになるんですね。
(普通のお酒は1.5~2.0くらいだと思います)

ただし、今回の頒布会の白麹の酒は、黄麹は混ぜません。オンリー白麹です。
そうなるとどうなるかというと?
単純計算そのまま、今回は酸度が2倍、
酸度が5近辺の酒が出来上がりました。つまり、ワインの酸度と近いですね。


さて白麹について、これがたいへん面倒な菌でございまして、蛇足ながら、
ちょいと解説させていただきます。
この白麹、クエン酸を生産するだめでなく、黄麹とは産生する酵素がまったく違って
いる点が特徴です。
特徴的なのは、フェルラ酸というポリフェノールを生産する酵素(フェルラ酸エステラーゼ)
を大量に造ることです。

このフェルラ酸は、いわゆるポリフェノールの一種です。
抗酸化作用があって、健康にはいいのですが、それ自体は、かなりえぐい&苦い&渋いものです。
(ワインのタンニンようなものですね~)

またフェルラ酸は、日本酒のもろみ内の雑菌が資化することによって、
4VG <4ヴィニル・グアイアコール>という燻製のような香りに変化してしまいます。

(なお、このフェルラ酸は、黄麹だけで造るフツーの日本酒にも少なからず含まれておりまして、
これは雑味、異臭の原因物質のひとつとして、マークされているものなのです)

ほか、白麹の酵素は、すさまじく頑丈で、どんな高い酸でも失活しないだけでなく
(焼酎の一次もろみの酸度はなんと20~25度!! なのに酵素は壊れずに米を溶かし続ける。黄麹の糖化酵素は一瞬で壊れてしまいます)、
さらには熱にも強く、通常の加熱殺菌では壊れません。最低でも70度以上に上げなくてはなりません—–。

あと、まあいろいろと理由がありますが、
経験則として、白麹(や黒麹)は、日本酒ではあまり使われてこなかったようなんですね。

ということで、白麹を「醸造酒」で扱うのは、けっこう大変なことです。
当蔵は数年前に考えなしにはじめたものですから、いろいろと白麹の背景を調べるにつれ、
これはやっかいなものに手をつけた—と頭を抱えたことがありました。
ただし、大変に取り組みがいのあることですので、ここ何年か、試行錯誤して、
扱いを学び、このたびは、集大成的な試みとなりますが、
「黄麹を一切使わないでやってみよう」、というところまでこぎ着けたのでした。


さてさて、続く2回目、3回目の内容は、以下に画像添付しましたチラシに載ってますので割愛しますが、白麹のお酒に負けず劣らずの技術的成果が詰まった頒布会となっています、はずです。
(まだ仕込んでない酒もあるので—-。たぶん大丈夫です、はい)


なお、秋田県内の酒屋さまでは結構お取り扱いしてくれているはずです。たぶん。
または秋田県外では地酒卸「名門酒会」加盟店様で、
かつ、当蔵のお酒を通常置いていただくださるような店舗さまでは、きっと、
お取り扱いをしてくれているはず(?)です。


真面目なテーマなんだけど、やはりマニアックで避けられちゃうかなあ—-と不安では
ありましたが、なんだか前年よりも注文のペースが早いような感じですので、ご興味ある方
はお早めにどうぞ~~。


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