蔵の修繕

そろそろ、蔵の修繕と改築がはじまりつつあります。
毎年毎年、こつこつと蔵の至らぬところを改造しているのですが、
今年は、釜場(蒸し釜と甑<こしき>、放冷機)の移転がメインの仕事です。

さて、当蔵は、創業の頃から存在する、年代物の土蔵の蔵を計6つ所有しております。
実は、蔵の保存のため、ちょいと解決しないとならない問題があったんです—–


一昔前で、多くの酒蔵では、10月~4月といった醸造期間のところが多かったと思います。
(出稼ぎの農家さんが主体で酒造りする場合は、農作業が本格化する前に終わる必要があります。
そのかわり出稼ぎの蔵人さんたちは、蔵に住み込み、土日もなく一切休みなし仕込み続けるのが普通でした)

一方、現在の当蔵は、9月の終わりにはスタートして、6月まで仕込みをやらなくてはならない状況です。今や、我々の蔵には、農家の方、つまり冬季中心の季節工はいません。
若手の社員メインで(全部で平均年齢とすれば30歳くらいかな)、現場を回しています。

でも、そうなると、今度は年間雇用のために、仕事を用意する必要があって、
できるだけ酒造期間を延ばす必要性が出て来ます。

幸いな事に、今は、昔と比べると、(純米酒のみの製造となりましたので)、中級以上の酒が、
メインになりました。
そういうのもあって、一本あたりの仕込みサイズがどんどん小さくなってきてまして、
仕込み本数はいっちょまえに多いんです。

さらに、やたら手間のかかる酒が多いため、スケジュールを詰め込む事もできない。
仕込みの間隔もゆっくりとせざるを得ず、どんどん酒造期間は延びまくっております。

(当蔵の酒の製造量は、私の帰郷時の6年目の約半分以下に減少しましたが、
総仕込み本数は減らないどころか、増えているんです。小仕込みの手が込んだものや、
実験酒だのなんだの、発売するかわからんようなものとか、貯蔵用のやら、趣味的なものとか
が多いんですよね—-)

雇用確保のためにはこれで良いわけですが、
しかし—。これは楽なことではありません。
寒い時期は、衛生度も高いので比較的、酒造りもしやすいのですが、
あったかい時期にさしかかると、造りはどんどん難しくなってきます。

なお当蔵の場合、造るものは日本酒だけ。
梅酒とかのリキュールもゼロ。焼酎とかも造ってもいません。

日本酒造りは雑菌との戦いであります。
温暖な季節は、衛生を保つのが難しくなってくる。このため安全を優先させた
造りを行うと、今度は、品質を保つのが難しくなってくる。
これが頭が痛い問題です。

特にうちの場合は気温と湿度が高くなってくると、構造上、
釜場の周辺がけっこうヤバいことになります。
かなりボロい蔵なんですが、釜場の上部の構造が、特に、ダメなんですね。
米を蒸した蒸気の抜けが悪く、釜場周辺に、湿気が常に滞留しがちになるんです。

このため、釜場周辺にある大事な蔵が、なかなか消えない湿った空気に巻かれてしまい、
あまりよろしくないような感じだったのですね。
酒で汚れやすい「瓶詰め場」が、釜に隣接している点についても、
衛生上、よろこばしくないことでしたから、「いずれ解決しなくては」と何年も前から考えていました。


そして、その時がついにやってきました。


今年のように、温暖期にまで、酒造りを行わなくてはならないことは、
これから避け得ないことです。温暖化の影響も油断がなりません。

一方、長らく負担をかけていた蔵にも、その保全について抜本的な
対策を行うべき時期になったということでしょう。
ということで、今年は、釜場を移転して、製造環境を整えることになりました。
お金はかかりますが、酒造りは半分は、文化事業でもあると思っていますから、
これは蔵の義務でもあります。



いずれ、貯蔵タンクがずらりと並んでいた貯酒場に、釜場が移動いたします。
ちょうど今、タンクを切り出して、からっぽのスペースを造ったところなんです。

(現在、当蔵の酒はなにもかも、搾ったらすぐ瓶に詰めて、
温度管理できる場所で保管しています。タンクでの貯蔵がなくなったので
手放すことができた、というわけです)

25BYの酒造りからは、排気設備の整った、清潔な環境で作業ができるようになるでしょう—–
先祖から受け継ぎました価値ある蔵も、これ以上のダメージを受ける事がないはずで、
一安心です。

いずれ、BEFORE/AFTER の写真を掲載しようかなと思います。
ではまた—–