パソコンが異常に遅くなりました……このせいで、ブログを書くのも
一苦労で、ストレスのたまる日々が長らく続いておりましたが……
やっと5年ぶりにノートパソコンを新調致しました。
MacBook → MacBook Air
と相成りました!
思えば、昔はかなり高かったのに、こんなハイスペックな軽量ノートブックが
10万切るほどになるとは驚きですね。
さて、生酛です。
酛摺直前まで書いていましたね。
私は今回、一人で生酛をやっていました。というのは、この仕込みは頒布会専用仕込み。
750キロ総米くらいの、いわゆる大吟醸サイズの酒母なので、
労力的にはさほどでもないということ。
そして、完全に現象を把握するため、つきっきりで見ていたいと思ったからです。
しかし、もういい歳です。39歳ですよ。
蔵に帰った時は、32歳でしたが、7年近くたったんですね! 信じられません。
2年くらい前から、麹の泊まり番をやると、どうも体力的に翌日もたなく
なっていました。
ところが、生酛造りは、麹どころの騒ぎではありませんよ。
生酛をまともにやると、3日くらい眠れません。(まあ、一人でやる人はいませんが)
「埋け飯」も「手もと」も、表面が汚染するのを防ぐために2~3時間毎にいじくる
必要があります。昔の人はよく、こんなのを、すべての仕込みでやってたと思います。
麹造りももちろん大変です。2日束縛され、後半の管理がつきっきりになるのですから。
しかし、生酛は心理的にも重労働です。しかも今回は酵母無添加なので、ちょっとでも汚染の
機会を減らさないとならないため、気が気でありません。
操作は複雑だわ、意味がよくわからないわ、眠れないわ、すべての酒造工程の中で、おそらくもっとも重労働なのではないかと思います。しかも今回は酵母無添加なので、ちょっとでも汚染の
機会を減らさないとならないため、気が気でありません。
これに比べれば、速醸酒母なんて、労力はまさに1/10以下、いやイメージ的には1/100以下ですよ。
(実際は、昔は、仕込みのはじめに、まずは生酛酒母をまとめて造ってしまったようですね。
ある程度酒母が溜まったら、それからもろみの仕込みに入ったらしいですね。生酛は、現代の速醸酒母とは違い、1~2ヶ月くらい枯らしに耐えますからできたのですね)
私も、前半戦は、数時間毎のお手入れのため、
仮眠をとりながらやりましたが、そのうち、心が折れ始めました。
とにかく疲労困憊で眠い。
仮眠をとるのはいいが、もし、起きられなかったら? 私の場合ガッツり寝ないとも限りません。
そうしたら、野生酵母やらカビやらにひどく汚染してしまいます。
結局、常に米の表面を嫌気状態にしておけば、手もとの時間が不規則になっても
汚染は防げるだろうと、
「手もと」と「手もと」の間は、米の上にビニールを張って、ステンの蓋を落としぶたをしました。これで、4~5時間くらいの睡眠を取れるようにしたり、とにかく、いろいろと手を尽くして、体力を温存しながらやっていました。
しかし、やはり限度があります。特に飽きっぽくて体力がない私は、なおさらです。
手もとも、本来はもっと時間を取るべきだったのでしょうが、「もう、このへんでよくね?」
と悪魔のささやきが聞こえ始め、全体的に、作業のタイミングとペースが早くなってしまいました。
もともと、「酛摺」の開始は朝8時くらい……社員が出社してからやる予定でした。
さすがに一人では厳しいので、酛摺そのものには、部下に応援を頼んでいたのです。
ところが、私は、真夜中に起きた時、
その時の精神状態がおかしかったのでしょう、異常に冷たい米をいじくる苦痛な
「手もと」をしながら、「いいかげん酛摺をしたほうがいいのではないか」
いや「もう酛摺すべきだ」という妄想にとらわれてしまいました。
(まあぶっちゃけ、早く取りかかって終わらせてゆっくり休みたかったのでしょうね……)
それから突然、何かに取り憑かれたように、一人で、午前3時ころから、酛摺を一人寂しくはじめたわけですが……これがけっこう大変ではありました!
そもそも、今回の「酵母無添加」スタイルの生酛は、
フツーの教科書的な「生酛」よりも、さらに水を詰めた配合ですから、
摺るのが難儀なのは目に見えていました。
きっと、手もとの時間をもう少しとったほうが良かったのかも……
気のせいか、まだ水分が均等に物量にしみ込んでいない感じがありました。
ちょっと摺ってみて、水分量を間違って造ったぼさぼさのリゾットのような代物が、
いずれ溶けるのかと、非常に不安に駆られたことは確かです。
しかし、とりかかったもんは仕方ないので、一人で、摺り始めることにしました。
半切り一枚につき、3~40分くらいかけて摺りました。これを5枚。
一周したら、また、連続して摺ります。
これは完全に修行状態です。一時間くらい摺ると、手袋をしていましたが、
手の皮が腫れ上がってきます。
とはいえ、そのうちコツがわかるようになりました。
力任せに、硬化した掛米を摺る必要はないのですね。たぶん。
まずは水分を吸って柔らかくなった麹を摺るくらいの力でいいのだと思いました。
つまり強引に掛米を摺り潰すのではない。
麹を摺り潰すことで、徐々に麹の酵素が、掛米をゆっくりと溶かしてゆく、
そのように誘導するのが正しいのだろう、ということです。
というのも掛米を無理に潰していたら、ネバネバした空気の泡を含んだような
糊になりました。こういう空気が多く含まれた素材は野生酵母に有利だと思いますし、
そもそも、こういう餅っぽく変化した澱粉は、容易に溶けない/糖分になりにくいのですね。
ということで、カスタード状の麹のペーストで掛米を包み、
時間をかけて、これを混ぜ合わせながら酵素の力で溶解性を上げてゆくのが本来の
あり方だろうと思います。
なので、「酛摺」は、適当な時間を置いて、
一番櫂、二番櫂、三番櫂、と酛摺を段階的に進めてゆくのだろうと思いました。
……しかし、私が摺っていると、なかなか教科書のようになりません。
一般的には、三番櫂くらいで「酛摺の櫂棒の先から、ぼとぼと物量が滴り落ちる」くらいに
なるはずが、なかなかそうなりません。
櫂棒を宙に掲げても、先っちょに、ごてごてとくっついた米のカタマリは、一切
落ちる気配なしです。
これはなぜか? 考えましたが……
・そもそも水が少なすぎるので、教科書ほど容易に液体っぽくならない。
・やはり手もと期間が短すぎた。もっと物量全体を混ぜ合わせ、軟化させてから
酛摺にかかるべきだった?
・コツに気づくまで、力任せに、かなり掛米を摺り潰してしまって糊を造ってしまった。
・あとは麹の質の問題もありそう……
当蔵は麹の精米歩合が40%で、しかもかなり若い麹です。
理想的な「吟醸麹」ですが、生酛等の酒母に向いたパワフルな麹ではありません。
対策として麹そのものの使用量をけっこう増やしてますが、それでも液化酵素がぜんぜん足りていなかったようで、米が溶けにくい。
・掛米も問題。初めてのトライなんだから、もうちょっと削れば良かった。
今回の生酛の酒の掛け米は65%精米です。まあそこまで「白い」米とは言えません。
酒こまちという軟質米を使っていますが、それでも酛摺を楽にするにはもう少し削ればよかった
のかもしれません。
こうしたことから、酛摺は、困難を極めました。
午前3時から、朝8時まで、微妙に休憩を入れながら摺りましたが、
ごわごわの飯のカタマリのままの状態が長く続きました。
さすがに、これは大丈夫なのだろうか……?
という気になってきました……。
つづく。