新シーズンの酒が搾れました! 当蔵の酒母は、本年度から(正確には昨年度の末頃からですが)オール生モトになりました。
現在、当蔵の生モトは、酛すりを特殊なスタイルでしています。いわゆる櫂棒を使って、数人で一気にすりおろしてしまう「山卸」タイプでなく、手でやさしくもみほぐすタイプのスタイルになっています。
(櫂の力を借りずに麹で自然に溶かす方法といえます。これは江戸時代の伊丹地方のスタイルで「寒元造様極意伝」などに記載されている手法です。つまり20日くらい延々と「手もと」<=手で混ぜる>だけで溶かすのです。衛生度をあげるため極端に水を詰めても大丈夫だし、また無理に米を潰さないので糖化率が非常に高く、生モトの出来はこのうえなく素晴らしくなります。難点はやたら時間がかかることです)。
この手法だと、通常30日未満のところ、米の溶解に時間がかかり40日かかってしまいます。当蔵は、もろみも長期低温発酵で40日くらいかかりますので、酒母ともろみあわせただけでも、80日かかるのです。で、やっと11月の終盤にさしかかってきて、続々搾れてくるようになりました。
実は酒母造りは、9月の中旬くらいからはじまっていましたが、1本目が搾られるまでにこれだけ時間がかかっておりました。9月頭ですと、秋田県産米しか使用しない当蔵には、まだ新米が入っていません。ですから、しばらく古米での製造が続きます
(酒造りでは一般的には古米でもたいへんよい出来になります。もちろん、米の保管方法にもよるのですが。鮨の米も同様古米が珍重されますが、捌けがよく操作性が良くなるからでしょう。私がよく参考にする本のひとつでもある江戸の「童蒙酒造記」に記載されてることでもあります)
という感じで、酒母につきましては、今の所たいへんよくできています! (失敗したのもあって、一から作り直さなくてはならないのも時々出ていますが—)、現場の技術の上達も早く、現在は、最高度に出来がよい生モトが安定してできるようになりました。このまま最後まで行けばいいなあと思っています。
さて、話はかわりますが、当蔵は自社で「亀の尾」を栽培しようという計画を立てております。
当蔵の契約栽培農家さまがいらっしゃる秋田市河辺という地区のはずれには、たいへん風光明媚な、まさに日本農村の原風景のような山間農村があります。
私は2月に体調を崩して以来、夏以降やや余力が生まれたときは、ここに足を運んで、癒されておりました。いつのまにか完全にこの地に惚れ込んでしまいました。
それ以来、この山間農村を酒米と酒造りの村にならないかと夢想していましたら、最近いろいろな方が協力してくださり、すみやかに実現のとっかかりができてきています。私もびっくりです。
水が大量にありまくる土地で、標高がやや高い山間にある村なので、無農薬にもぴったりです。
こういう環境で栽培する米は、「亀の尾」と決めています。江戸期の米の「亀の尾」は、人間の浅はかな——その場の欲求による余計な品種操作を施されてはおりません。 酵母で言えば6号のようで、ダイナミックな自然のパワーが詰まった超ベーシックな米なのですね。今となってみれば、いろいろな気候変動にも対応できうる米と考えています。
「亀の尾」は、東北の酒米と飯米の祖先です。鮨飯なんかには最高でしょうね。また飯米としても食べていただきたい米であります。
また、できればここで造る「亀の尾」は、最終的には無農薬で作りたいのです。なぜ無農薬にこだわるかというと、私は玄米でも米を食べるし、ヌカなども活用したいし、社員にはあまり健康リスクを冒してもらいたくもないし、いろいろと理由がございます。
私は農家さんにもらった玄米を、その都度、精米して食べています。はじめは古い米を再精米する用途で買った小さな精米機があってそれを使ってるんですね。いつもは3分、7分つきが通常で、時には玄米も食べます。なので無農薬がいいんですね。無農薬なら、ヌカも漬物とか化粧品とかに使えるし、無駄がでないのです。
来年からとっかかりますが、今から楽しみです!! 私自身、農業ができるだなんて思ってもみませんでした。
地元の住民の皆様と一緒に、この土地の本業の稲作によってこうした山間農村が蘇り、故郷の活性化に貢献できればよいなあと思ってます。