三冠いただきました、ありがとうございます。

10月に秋田県で開かれました「秋田県清酒品評会」ならびに、昨日11月12日仙台で開かれました「東北清酒鑑評会」にて、たいへん良い成績をおさめることができました。

「秋田県清酒品評会」では、「純米の部」にて、秋田県知事賞をいただきました。純米の部では上位3蔵しかいただくことができない賞でした。また、「東北清酒鑑評会」では純米の部にて優等賞をいただきました。

これらの酒は同じ酒で、春の「全国新酒鑑評会」に出品しました美郷錦30%磨きの純米大吟醸です。晴れて同一酒で「三冠」となったわけでございます。

なお、この酒、同一タンクの市販酒バージョンは「新酒鑑評会金賞酒」として発売してしまっております。これらの結果が出るまでもう少し待って、箔をつけて売ればよかったかも—–。もし、まだ飲んでいなかった方がいたら、このたびすべての結果が出揃いましたから、楽しみ倍増で飲んでいただけるのではないかなと思います。

さて、こうした出品酒は、現在、製造部長である古関くんにお任せしておりますが、このような素晴らしい成績を残してくれて、大変嬉ばしいことです。また、これは蔵人が一体となって勝ち得た名誉でありますし、また自然そして偶然の賜物でもあります。

26Byは、この酒ができた2月頭ころ、私は情けないことにダウンしてしまい、それ以降は現場をリアイアしてしまいました。ぶっ倒れる直前ころの記憶では、古関部長は、このもろみにたいへん難儀していて、実際かなり危ない橋を渡っていたことを覚えています。序盤で、もろみが冷えすぎてしまったんですね。再び立ち上げるのに相当苦労していたようですが、さすがに彼の能力は高く、見事にもろみを盛り返し、結果的には稀に見る良い酒に仕上げることに成功しました。酵母の限界に挑む、まさに吟醸造りの原点を極めるような取り組みが成功したといえるように思います。

 

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当蔵が、今年以前に三冠をいただいたのは、19By(平成19酒造年度)の造りです。私が秋田に戻った2007年の秋から始まるシーズンでした。私はそれまで1年半ほど在籍していた広島の酒類総合研究所で、鑑定官の先生たちが参考出品する大吟醸の造りに参加させていただいいておりましたので、有益な技術をいろいろと知っておりました。秋田に帰ってきた初年度は、早速そうした知見を注ぎ込んで高級酒に限って酒造りさせていただきました。

当時のうちの蔵は、現在の3倍くらいの出荷量がありましたが、全体の八割以上が普通酒で、その六割くらいがパック酒です。総じて地元向けの低価格酒が主体で、(それはそういう社会的な役割を担ってたにすぎないので、特に良いも悪いもないのですが)、日本酒離れによる売れ行きの悪化と、とんでもない価格競争に巻き込まれてしまっていて、非常に困難な経営を強いられておりました。高級酒もまったくぱっとせず、新酒鑑評会も10年以上、金賞からご無沙汰でした。

そこで私は、高級酒くらい人並み以上のものを造りたいと思い、当時、製造部長であった鈴木(現在は原料調達部門のトップをしております)とタッグを組んで、「酒類総合研究所」仕込みのスタイルで出品酒をこしらえようと思いました。

当時造ったコンテスト用の酒のレシピは——-アル添の「大吟醸」+ 原料米は「山田錦 特A」40%磨き +「明利酵母」という鉄板の香り系酵母 +「グルコS」という糖分がよく出る麹菌——-でありました。懐かしいですが、我々もキャリアの初期はこうした酒を造っていました。

もちろん、当時在籍していた熟練蔵人の腕前があっての話ではありましたし、ビギナーズラックもあったのでしょうが、10年ぶりで、いきなり新酒鑑評会金賞、県知事賞、東北優等賞をいただいてしまいまして、自分でもたいへん驚いたのを覚えています。

しかし、そのとき私は同時に、不可思議な危機感も覚えてしまいました。こんなド素人が指揮した酒でも評価されるというのは、何かおかしくはないか。現在の酒造りが、酵母や麹、設備などの「ハード」的側面に依存しすぎるきらいがあるのではないか? と思ったのでした。

コンテストの酒ならずとも、市販酒もしかり。技術よりハードの能力で、酒質がなんとかなってしまう例が大半です。若い蔵元や杜氏は、意欲があり、ひいては情報も積極的に集めることができるので、すぐ冷蔵庫を買ったり、新しい酵母やら麹菌やらを使って平均以上の酒をつくるので、いきなり酒が良くなったよう見えたりします。

もちろん、情報収集も設備投資も良い酒造りには必要な条件です。けれども、それは「酒造りがうまい」、つまり「発酵現象をより深く理解している」といったこととはまた違った能力です。

調べてゆくにつれ、酒造業界の実質としては、個々の酒蔵による技術追求がほとんど行われておらず、かわりに官製のバイオ技術や、汎用の装置産業に製造技術の土台が依存するようになっているような気がいたしました。

つまるところ、清酒産業は「伝統産業」というより単なる「加工業」に近づいているのではという疑問をいだいてしまいました。いつの間にかコンテストに対しての興味も失ってしまい、その翌年から我々は、全面的に蔵のあり方を変更し、可能な限り不利な素材をもって、ストイックに独自の技術を獲得することに血道をあげるという(先輩の酒蔵さまから言わせると「マゾヒスティック」な)独自路線に邁進していきました—–。

それからは好き勝手な道を進んでいましたので、また三冠をもらうとは思いもしませんでした。なにしろ当時とは違って、「生酛系」酒母のみの製造、「純米」造りのみ、市販酒最古の酵母である「六号酵母」で醸造を行う蔵です。また秋田県産米しか使いませんから、出品酒で使った米は「美郷錦」です。一般的な感覚では無理っぽい組み合わせです。ところが、だんだん技術が上がってきたおかげと、また、コンテストにおける評価基準のトレンドがかなり変わってきたのもあり、今回はたいへん良い評価を得ることができました。

(個人的には、市販酒と出品酒の差を縮めていこうとという風潮が、審査側にあらわれてきたように思います。審査側には、蔵元や製造側の人も多く含まれており、彼らの意識が変化してきたのかもしれません。特殊な酵母を使う香りが高い出品酒の酒は、一般的には劣化しやすく、時間が経つと脂っぽい匂いがするものが多いようです。どちらかというと一般市販酒には向いていないのです。せっかく作った酒でもコンテストに入らなければ、売り物にならず、そのまま出せないことがよくあるわけです。別の酒と混ぜて香りや味を調整しないと耐久性の面で出荷できないことも珍しくないのです。そうした弱点があらかじめわかりきっている酒を高く評価することに、製造側から疑問が生じてきて当然です。こうした香り系酵母が登場する前の酒、30年も前の出品酒——-例えば9号酵母を使って醸された優れた酒、例えば「YK35」時代の酒など—–の記憶が、製造側のなかでよみがえってきていても不思議ではないと思います)

ということで、今回いただいた三冠は、19Byにいただいたそれとは、まったくケタの違うことで、まさしく稀有なことだと思います。いつもの「新政」の味でいただけたことが誇りです。なにしろ、今年は「六号酵母生誕85周年記念」ですから、実にたいへんありがたい勲章をいただいた気分です。先祖も喜んでいることでしょう。

また、再びこのようなオフィシャルな賞をいただくまでに、我々「新政」を懐深く応援し続けてくれましたファンの皆様には、蔵人一同本当に感謝しております。

今季も素晴らしいお酒をお届けできますよう頑張りますので、引き続きよろしくお願い申しあげます!