NEXT5 共同醸造酒が完成しました。

NEXT5共同醸造酒「Murakami Takashi ✖️ NEXT5」の酒がついに上槽となりました。

40日かかる江戸初期型の古典生酛での仕込みでしたから、はじめの酒母麹の米洗いが12/16でした。かなり昔に感じられます——。

このスタイルの生モトから立ち上げる酒造りは、どれもこうなるのですが、実質3ヶ月近くかかってしまいます。

このように、生酛は今となっては結構大変な製法に思えます。日本酒が高価な飲み物であった江戸時代以前はこれが普通の作り方だったのですが、明治以降の醸造法の根本的な変化のため、相対的に経営を激烈に圧迫する製法になってしまいました。すべての酒にこれほどコストがかかる製法をあてはめることは、技術的な側面ももちろんですが、経営面でこそ大変難しいことでした。

日本酒は、今までずっと景気が良い産業ではありませんでしたから(無論、今でもそこまで調子が良いわけではないです)、こうしたコスト問題も看過できないわけです。私も今も直面している難問ですが、多くの蔵元は常に慢性的に価格抑制のプレッシャーを受け続けながら酒造りをしなくてはなりません。

ビール、焼酎、ウイスキー、ワインほかあらゆる酒類で、総出荷量と平均価格がどちらも延々と下落している酒類は日本酒だけといいます。(ほかの酒類では、総出荷量が減ると平均価格が上昇するなどバランスがとれたプライシングになるのですが—–)。

ですから、コスト計算が間違って倒産する酒蔵も少なくないのです。より良い品質の酒・あるいはより高い文化的価値を持つ酒が、場合によってはいとも簡単に価格競争で敗北してしまいます。

まあ清酒業界に限らず、国内産業のプロダクトはメーカーごとの価格の幅があまりない傾向があります。コストがかかるものを作ってもなかなか価格に反映しにくい風潮があります。日本酒なんかは典型的で、大手メーカーも家族経営の零細地酒蔵も、純米クラスを見るとあんまり値段が変わりませんね。驚くべきことです。日本酒の原価は原料費が多くを占めています。ですから酒米か否かという点と、精米歩合でおよその値段が決まってしまいます。米は好きなものをどこからでも買えるわけですし、精米作業は機械がやるものであってここに蔵の独特の技術は生かされてないので、結局はその蔵固有の特徴の付加価値は値段に含まれてにくいわけです。となると、我々は味気ないものにお金を払っているような気がしませんか。

また、こういう値付けだと一本あたりの利益が薄いため、いざ経営を強くしたいと思うと、たくさん造るという方向に誰しも頭がいってしまうわけですね、規模に関わらず。でもできるだけたくさん造るという方向性は、必然的に業界全体での酒質の均質化、ひいては一極集中を招きます。そうなると市場は同じようなプロダクトだらけになって、価格は抑制的に動き、度を過ぎると寡占化に結びつきます。日用品ではこうしたことが起こってしまいます。

たくさんの多様な蔵が生き残る方向とは、やや違う方向へ進んでしまうような気がします。伝統産業としてはあまりよろこばしくないですね。今までは、ずっとそれでやってきたけれども、これからはちょっと違う方向へ行った方がいいんじゃないかという気もします。

 

今年から当蔵は、全量生酛に切り替えましたが、上記のような困難さについては、蔵元として日々感じている次第です。とはいえ業界の活性化のためにも、もっと「生酛」などの伝統的製法や、文化的な付加価値が高い酒が、ちょっとでも市場に多くなってほしいと思います。

まずは、できるだけ多くのお客さんが、生酛に詳しくなって相応の価値を認めてくださればありがたいなあ——と思っています。

 

 

 

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↓こちらは、上槽直前のもろみの写真ですね。

生酛は立ち上がりが、速醸系酒母と比べてゆっくり目になります。

酒母自体にも長い時間がかかるわけですが、さらに、もろみもゆっくりめに推移するので輪をかけて製造期間が長期化しやすいのです。

理由はよくわかりませんが、超濃厚な液体の中で育ったため、酵母がまるまると肥えており(具体的には細胞内の液胞に栄養がいっぱい入っているので)、自前のエネルギーが豊富なぶん、あまり外部環境に影響されず、そんなに急いで増殖しないと誰かおっしゃっていたのを聞いたことがあります。

 

今回のもろみも、「ゆきの美人」始まって以来の遅れ方をしたそうです。蔵元・小林忠彦さまも、さすがに難儀したようですが、さすがたいした腕前の持ち主です。初めての生酛でしたが、途中からコントロール方法を完全に習得されて、無事に予定通りの味わいに仕上げられました。

私も利き酒させていただきましたが、かなり完成度が高く、また軽いタッチながらも、生酛らしい風格が感じられます。酒のビギナーも玄人も楽しめる素晴らしい美酒ではないでしょうか。手間暇かけただけあって、まさに生酛本来の姿がここにあります。

 

 

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この美麗さと奥深さが同居するテイストを、多くの人に楽しんでいただければと思います。発売に関しての細かなアナウンスは、また後ほどさせていただきますので、もう少々お待ちくださいませ!! 

 

 

さて、ちょっと前になりますが、秋田市の紅茶専門店「Elephant Talk」にて、音楽✖️酒のミニイベント「プログレッ酒ブ。」が開催されました。

 

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田村一くんの特製の器で当蔵のお酒を飲みながら、アーティスティックな音楽を聴いてゆったりと過ごす、というアットホームな会でございます。

選曲者は田村一くん、そして建築家・音楽家の木川伸一さん。そして私で、2時間ほどみなさまと楽しい時間を共有させていただきました。

 

 

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セットリスト

 

 

田村一さん

"Un Dia"   Juana Molina

"Worrywort"  Radiohead

"Checking Out" Allan Horldsworth

"Coda" 石橋英子

"Maturi" Hermeto Pascoal

"Breathing Underwater" Hiatus Kaiyote

 

木川伸一さん

"Paint Box"     Pink Floyd 

"For Example"     The Nice 

"Epitaph"  ザ ピーナッツ" (King Crimsonのカバー)

"The Rain song"    Led zeppelin

"The song remains the same"    Led zeppelin

"Dream within a dream" Propaganda

 

"I'm Deranged"      David Bowie

"カーニバルがやってくるぞ(パリ野郎ジャマイカに飛ぶ)” 四人囃子

"Vuoy"   想い出波止場

"Devotional Dub"   Tabla Beat Science

"Stars"    Ulrich Schnauss

"Progressive Rock Medley"    Ruins

 

という選曲でございました。それぞれ性格がよく出ている選曲だなあと思います。

私は追悼にDavid Bowieから始めさせていただきました。また、最後の最後に、会場の店名にちなんで、King Crimsonが3曲流れました。"Great Deceiver" "Elephant Talk" "Frame by Frame"でありました。

 

ご興味があったら、上記の曲は、「you tube」なんかで検索すると聴けるようですね。(ただ、あれって法律上問題ないかなとか思ってしまいます。聴くだけならいいんでしょうかね)

私は最近、アップルの音楽配信サービス Apple Musicで音楽を聴いておりますが、残念なことに、Apple Musicでは上記の音楽はすべて網羅されてはおりません。でもたいてい聴けるので、Apple Musicに入っておられる方はぜひとも。では、また。