出品酒チーム経過報告8

まずは地酒ファンの皆様へ
先日の「秋田の酒を楽しむ会」のワンシーン。
「一白水成」の雄町が今年発売になるようです。
楽しみですね。

蔵元駄文-いっぱく


それはさておき。

蔵元駄文-サーマル

私と杜氏が出品酒を仕込んでいるタンクです。
向かって左が私。右が杜氏のです。
上槽場所と瓶詰場所にはさまれた、あんまり良いとは言えないスペースで仕込んでます。
実はこのタンク、瓶詰め前に酒を保管しておくために使ってるんですが、
急遽、私のこの迷惑な思いつき企画で、仕込みに使用せざるをえなくなったわけなんです。

400キロ総米用の最小サイズのサーマルタンクなんですが、
これ「USサーマル」といって、中に循環している冷却液の温度まで設定できるという、
サーマルタンクの中でもっとも豪華なバージョンなんです。本当は貯酒用に使うなんて
もったいないくらいのタンクなんです。

どんなにいい酒ができるか、と仕込んでみたものの。
やっぱり、いきなりでは使いこなせません。温度コントロールが難しく、
我々のもろみは、冷え込みまくりました——。

出品酒は、報告が遅れましたが、5日前に、
古関/津田組の「酒こまち」もろみが上槽(じょうそう=搾ること)になりました。
オリを下げるのに、4日かけて、昨日、火入れ(60度以上の温度を加え、
酒の中に残る酵素を失活させ、また雑菌を殺菌し、それ以上、酒を劣化、変化させないようにすること)を行ったということ。

酒の出来は?
利き酒してみましたが、
うーん、ちょっと、出品酒にしては、味が重くないか? あまりに出来上がっています。 
さすがに後溶けが効いたみたいで、米の味がのっかりすぎています。
これは相当「旨い」純米大吟醸ですが、今回、コンテストとして
比較される相手はアル添大吟醸。綺麗さで戦う鑑評会では、相当不利です。

次に、本日、美郷錦使用のもろみも上槽になりました。
一番いい部分を利き酒してないので、なんとも言えませんが、
「旨い」けれど、これも鑑評会ではたぶん—–ダメ。
古関の出品酒よりさらに、味が濃い。

私のもろみも、26日。そろそろ、ラストスパートですが、
やっぱり、けっこう味が多い。
アル添したら、勝てるのに! と、どの組も口を揃えていいますが、
そんなことするくらいなら落ちたほうがマシです。
いやはや、純米は難しいですね。
がっくり。




ps、アル添について、酒の味がどう変わるのか、以前、お客さんから質問ありましたので。
ちょっと解説します。
アル添の目的は、酒の味を薄く/軽くすることです。つまり、米のエキス成分を薄めることです。

このアルコールは、醸造用アルコールといって、南米などのサトウキビなんかが原料で、
日本に輸入されてから、さらに何度も蒸留をかけられて、純度の高いエタノール溶液
(まあ、甲類焼酎の原液みたいなもの)になります。

だいたい、酒にぶちこまれるのは、30%濃度のエタノールです。
つまりアルコール濃度30%の甲類焼酎みたいなものですね。

ということは、アル添酒というのは、「純米酒の甲類焼酎割り」
のようなものになりますね。一時、焼酎に乗り換えた人が多かったわけですね。

さて、大吟醸のアル添の作法を述べますと、
15%くらいのアルコール濃度の純米もろみに、
30%濃度のアルコール水溶液を入れ、
最終的に18%くらいのアルコール濃度の酒にします。

ですから、アル添すると、アルコール分だけがちょっと高くなって、
純米もろみの、酸度もアミノ酸度も糖分も全部薄まってしまうんです。

例えば、現場の例では、
アルコール15%、酒度-2、酸度1.5、アミノ酸1.0といったもろみがあれば、
どんとアル添することで、
アルコールを17%半ばにまで上げて、他の成分は、
酒度+5、酸度1.3、アミノ酸0.8 とかまで味を薄めることができます。

ということで、骨格だけは残したまま、米由来のエキスは少なくなり、
ぐーんと飲みやすく、淡麗になる。と。


本醸造/吟醸/大吟醸は、原料米1トンあたり116Lくらいのエタノール原液(追記:30%アルコールだと386Lですか)
を入れても良いことになってます。

普通酒はもっと大量に入れてもいいです。だから、まあ安くなるんですが。
今は「二増」といわれてて、純米を二倍まではいかなくても、近いくらいは薄めても良いという
現状です。
えー、確か原料米1トンあたり230L(だっけ?)までエタノール原液(追記:30%アルコールだと766L)を入れても良いことになってます。

これでも相当マシになったほうで、数年前までは「三増」までが、許されてました。
そんなアル添すると、米のエキスが限りなく薄くなって辛くなりまくるので、
酸味料とか糖類とかで味を整えていたわけです。

もとから「吟醸」というものは、酒をキレイにするため米を磨いた酒をさします。
アル添も同じ発想です。味を消そうという努力です。
20~30年昔は、もっと消そうとして、出品酒なんかは、活性炭を使って味をとったり
していました。
活性炭など、今は市販酒のさほど高くない酒に使うのすらためらわれるくらいなんですが—-

「吟醸」という概念そのものが、すでに時代にそぐわないのでは、
という気がするのは、私だけでしょうか?