「生モトと山廃って、どう違うの?」 とか、
なんで「山廃」なんかするの? 「生モト」にしないの?
というようなご質問をよく受けます。
普通は、「生モト」すらわからない方がほとんどだと思うので、
以上のような質問をされる方は、かなり、日本酒についてご存知の方だと思います。
そうして、なんとなく、ニュアンスとしては、「生モト」のほうが、正統的で、
「山廃」の方が下、というような捉え方をされているような気がします。
はっきりいうと、答えは「山廃は、生モトの製法のひとつで、生モト=山廃です」
というところが正しいのですが、やや説明がいるかもしれません。
まず、生モトは「摺モト(すりもと)」と「山廃モト」に大別できます。
どちらも「乳酸菌と酵母を同一容器の中で連続的に生育させる」ところが
特徴です。
「摺モト」は、「半切(はんぎり)」という浅い桶に米を入れ、
「摺りつぶす」ことによって、強制的に米を糊化する作業を行う手法です。
すりつぶした米は、後で「壷台(つぼだい)」(=酒母タンク)にまとめて、仕込みとします。
次に「山廃」ですが、これは米をごりごりと徹底的に摺り潰すようなことはせず、
蒸米を、半切り桶をすっとばして、いきなり、酒母タンクに入れて、
「櫂入れ」をよくすることで、米を破砕します。
そもそも、「摺モト」製法の、
「半切桶」で米を摺り潰す作業を「山卸し(やまおろし)」と言ったのですが、
これをなくした製法ということで、
「山卸廃止モト(やまおろしはいしもと)」という名前になりました。
これでは名前が長すぎるというので、
当時の酒母研究の第一人者であり、後に秋田の指導者となった
天才技師「花岡正庸」先生が、略語を思いついて、
「山廃モト」とし、この名称を世に広めました。
ということで、「摺モト」「山廃」どちらも同じ「生モト」で、出来る酒母も同じです。
そもそも、「山廃」造りとは、どうしてできたかというと、
もともと、普通に「摺モト」を立てる予定が、半切りが足りなくて、
仕方なく、米をいきなり酒母タンクに入れざるを得ず、
「山卸」のかわりに、一生懸命、櫂入れをすることで代用したら、
なぜか普通に酒母ができたどころか、場合によっては、かえっていい酒ができた、
というのが出発点なのです。
結局、米を丁寧に潰すのが「摺モト」で、
やや簡素に行うのが「山廃」なわけで、どっちも、生モト造りに代わりはありません。
なので、どちらの酒がうまいとか、技術として上か、などということはなく、
出来が上がりは、同じなのです。
(ただし、「摺モト」と「山廃」は、仕込みの温度や、それによる微生物の立ち上がりなどが
若干違うので、少々、温度経過が変わってはきます。ただ、味に大差生じません。
「米を摺るとえぐみが出る」とか、「いや、摺った方が酵母が強い」とか、諸説ありますが、
たぶん、造り手の印象で、実際はほとんど変わらないでしょう)
ただ、現場的には造りやすい、造りにくいというのがあって、
例えば、溶けやすい性質の米だとか、蒸しが柔らかいとか、あまりに気温が低いとかの
時は「山廃」が有利だし、逆ならおそらく「摺モト」が有利です。
例えば、厳冬期に東北で、軟質米(酒造好適米)
を使ったりするときは、山廃のほうが有利な時が多いのではと思います。
逆のパターンもあり得ると思います。例えば、うちでは、基本「山廃」方式ですが、
やや暖かいときに、あまり精米歩合がよろしくない米で、しかも「亀ノ尾」とかの硬い米で
生モトをやれ、と言われれば、「今回、摺ったほうが良くないスか?」という意見がでるでしょう。
まあ、状況に応じて使い分けるのがベストなんです。
ただ、これらの言葉の使い方が、現実と、流布しているところが違うので、悩む事があります。
うちは、もっぱら「山廃」方式ですが、もちろん「生モト」とうたってもいいわけです。
上述のように「山廃」は、「生モト」の製法の中のひとつなのですから。
ただ、世間では、どうも「摺モト」だけが「生モト」というような間違ったイメージが
あるようなので、これが困る。
うちは、混乱を招かないように、この「摺モト」=「生モト」という、
一般的に流布してしまったイメージを優先させました。
ということで、「摺モト」をする必要を感じなかった当蔵では、
(別に「生モト」としても良かったんですが)、「山廃」という名前を商品に
冠する事にしました。
けど、後で考えたら、どうもまずい。
これでは、うちが何らかの理由で「摺る」必要が出てきた時、
その酒は、そのまま「山廃」という商品名で出せないんですよね。
うーん、やはり「生モト」って言っておいたほうが、自由度が広がったのかも。
ミスった—–?