出品バトル酒 報告8 「踊」

さて、今日は、「踊」の日でした。

おなじみの、
「三段仕込み」。清酒醸造の技術の中でも、
たいへん素晴らしい発明ですね。

日本酒造りは、世界でも例を見ない、「平行複発酵」という形式をとっています。

これは、
「糖化」と「(アルコール)発酵」という
二つの<発酵>形式が、一本のもろみの中で、同時に進む事から、こういうんですね。

*「糖化」も発酵なの? と昔は思っていましたが、
広義の「発酵」に入るようです。



単純に言えば、

1、麹菌の造った酵素が、米を溶かす
(これが糖化作用。麹菌は好気性の菌なので、酸素がないと生きられないので、
もろみに入ったら死にますが、彼らの造った酵素が、米をえんえんと溶かし続けるのです)

2、その溶けた米からできる糖分を、酵母がアルコールに変える
(これが発酵。ブドウ糖という糖分の中では最も低分子の糖が、
もっとも効率よくアルコールになります。
ほか、麦芽糖とか、もっと構造の大きい、いろいろな糖分がありますが、
酵母の種類によって、食えたり食えなかったりします。

6号酵母は、乳糖<ガラクトース>が食える、というような文献を見た事があります。
牛乳から酒を造ってみようかな?

そういえば、セルロース<植物繊維の炭水化物>をガンガン食ってくれる酵母があれば、
木の廃材とから、バイオエタノール燃料が造れるのですが、
残念ながら6号は無理です—-当たり前ですが)



で、この糖化と発酵が、いいバランスで進むと、うまい酒ができる。

悪いバランスだと—-

糖化が発酵よりも強いと、発酵が負けてしまい、酵母が溶けすぎた米の中で、
増殖できなかったり、途中でへばってアルコールが途中で出なくなったりして、
ついには、酒は甘ったるい弱々しいものになり、最悪の場合、
他の菌がいっぱいとりついて、腐ってしまったりします。

逆に、発酵が糖化よりも強いと、
滅茶苦茶に辛い鬼殺し的な、アルコールのカタマリで、エキスがほぼないといような、
モロに焼酎的な酒になります。
米が全然溶けないうちから、酵母の増殖と発酵が盛んになりすぎると、
こういう現象が起こり、あっというまにアルコール分が上がってしまい、
米が溶け切る前に、酒ができあがってしまうのです。
また、そもそも、米が溶けない場合にも、こういった酒になってしまいます。



ということで、昔の人は、
バランス良く、うまく米を溶かしながら、
早すぎもせず、遅れすぎもせずに発酵を開始させるため、
三回に分けて仕込む、ということを開発しました。

これが三段仕込みです。

もし、一段だったら?
全体の5~6%にすぎない酒母に、いきなりその20倍くらいの水と米がどかっと
ふってきたら??
これは、発酵が追いつかないで、「糖化」優先になってしまう。

うまく、酵母の発酵と増殖を促進させるには、分割してちょっとづつ物量を
増やしてやればいいんですね。

酒母を2倍で、添。
添が2倍で、仲。
仲が2倍で、留。

こうすると、うまく米が糖化され、一方で糖化されてでてきた糖分を
適当な数にまですみやかに増えた酵母がちょうどよく食べてくれて、
甘み、酸味、辛みなど、味のバランスが良く、お酒が醸し出される、
ということに昔の人は気づいたのです。

三段仕込みは、室町時代くらいから行われているのだったと思いますが、
素晴らしいですね。

で、わたしんところの出品酒ですが、昨日は「添」ましたね。
今日は—–「仲」ではないんですね。

「踊り」といって、三段仕込みには、一日中休みがあるんです。
酒母は、最後のあたりに、「枯らし」といって低温の休眠期間をとるのですが、
こうした状態から酵母が目覚めて増えるのに時間がかかるので、
「添」のあとは、一日温度をキープして、酵母を十分に増やしてやります。


これは、「踊り」の朝。
酒母の酵母が、やや目覚め始めて、増殖しつつあり、ガスを発散させ、
底のほうから、昨日仕込んだ米を押し上げています。
なので、米が浮かんできています。

蔵元駄文-もっこり


櫂入れをして、米を沈めて混ぜ合わせ、またしばらく経ったころ。
表面に、泡の筋が走っていますね。
これを「筋泡」と言います。
酵母が、スタンバイをはじめた印です。この筋泡の本数で
酵母の活性度を読み取る事ができます。
「見えピン」の添えは、まずまず元気ですね!
ほっとしました。

蔵元駄文-筋泡

さて、明日は「仲」仕込み。
がんばりまーす。