酒母とは何か? 1

さて、今日は、出品バトル酒の「初暖気」がありました。

速醸酒母の造り方ですが(あくまでもうちの場合)、
まず、5~6℃の部屋の中で仕込みが行われます。
仕込み水を、10℃くらいまで暖めて、乳酸を入れます。
それから所定量の酵母を、この酸性になった仕込み水に投入します。
そして麹を投入し、よくまぜあわせます。

(普通のやり方では、麹を酵母よりも先に水に入れる=麹の酵素を数時間、仕込み水に
溶出させるための「水麹」というものを造るのですが、
NEXT5のリーダーの「ゆきの美人」小林流では、この水麹を造らないのが特徴。私も見習って
このスタイルで仕込んでおります)

そして、蒸米を40℃に冷まして、投入。
混ぜると、17℃~18℃になりますので、これにて仕込み完了。
よく櫂入れをして、物量の体積を確認(尺を採る)します。

これから、6~7時間、保温します。ある程度の温度で米を溶けやすくします。
ただ、この期間が長いと、酵母が増殖/発酵を開始してしまいますので、
それを防ぐため、
ある程度の時間がたったら、保温を解いて、またしっかりと櫂入れをする(=荒櫂)。
最後に氷の入った筒を入れて、物量を冷やします。すみやかに、10℃以下、
できれば5~6℃まで冷やす(打瀬)。
これで、以後、米は軟らかくなって、酵素作用によって糖化されやすくなり、
まだ酵母も眠ったままです。

 この低温期間「打瀬」は2~3日継続されます。
 当蔵の場合、3日目から、60℃の熱湯の入った筒を差し込んで、米を溶かす作業に入ります。
これを「暖気」と言いまして、はじめの暖気を、特に「初暖気」称しています。

なんで、こんな熱い筒を、酒母にぶっさすのでしょうか?
話せば長くなりますが、これもまた、酵母を活動させず、米だけを溶かすために
行っているのです。

酒母の目的は、アルコールを出す事ではなく、強健な酵母を純粋に大量に培養する事です。
ですから、酒母の溶液に、米と麹のエキスが、まず大量に溶出され、
栄養がたくさんある状態にしてから、改めて酵母を増やすことが重要です。

(このように糖化が、明らかに発酵よりも先に行われるので、
酒母は、「単行複発酵」つまり、ビールのような形式をとります。
 もろみは、長期間、小出しに酵母に栄養を与えながら発酵するので、「平行複発酵的」
 ですから、ぜんぜん違いますね)


ですから、酵母が増殖する前に、できるだけ米を溶かさなくてはなりません。
「酵母を増殖させず、都合良く米だけ溶かす」、これが暖気の役割なのです。

米を溶かすのは、麹菌が造る、「溶解/糖化」酵素の役割です。
この酵素は、温度が高いほどよく働きますね。
ところで、一方、酵母も温度が高いほど活発に発酵します。
ただし、酵母は生き物です。非生物の酵素よりも、反応が鈍いわけです。

暖気を用いて、部分的加温を行って、よくよく米を溶かします。
そして、酵母が「やれやれ、あったかくなってきたぞ—-」と活動し出す前に、
この暖気を抜き取ったり、位置を変える。
抜いた後は、酵母が活動しにくい温度(10℃以下)まですぐ冷やす。
これを繰り返します。

これは、暖気が終了した後に、氷のつまった暖気を差し込んで、
すみやかに温度調整しているところです。


蔵元駄文-だき

すると、あら不思議。
酵母は活動できないけど、糖化はよく行われる、という現象が起こります。

酵母(生物)と、酵素(非生物/タンパク質で構成)の、
温度に対する反応のタイムラグを見事に利用し、酵母を動かさずに
米だけを溶かしているわけです。

これを繰り返すことで、酵母が増える前に、相当米を溶かし切る事ができるわけです。
昔の人って、ほんとうによく考えつきましたね。
酵素も酵母も知らなかった時代に——-


ちなみに、以下は、「手モト」の風景。出品バトル酒の
仕込み当日の作業です。
(佐々木 公太くんはでかいので、やたら酒母が小さく見えますね)

この「手モト」とは、字のごとく、手で、酒母(モト)を混ぜる事を指します。
仕込んだ当初の、水を吸って壊れやすい麹を、壊さないように、均一に混ぜ合わせる作業です。

櫂(かい)などよりもソフトなので、高精白の米などを
扱うときなど、ここぞという時は、「手モト」を行います。

蔵元駄文-てもと


そういえば、「亜麻猫」の酒母も今日、仕込みました。
きっと明日は、よく溶けてくれているでしょう—?

蔵元駄文-亜麻猫