酒母とは何か? 2

半分眠りながら書いているので、誤字脱字てんこもりですみません—–
馴れない酒母の仕事で、大変な日々が続いてましたが、
ここのところ、軌道にのってきました。

しかし、いきなり、足に魚の目が2つでき、タコも2つ。
全指、しもやけ。指の股に深いあかぎれ。
意味不明な、やたら痛い発疹も数個。

酒母室内では、サンダルで重いもの(暖気樽や、氷の入ったコンテナとか
いろいろなもの)を運んだりするので、無理な過重が足にかかったのと、
5℃以下の空間でサンダル履きで、しかも、ついつい長靴を
履かないで、洗物をして、しょちゅう靴下を濡らしたまま仕事をするため、
足がめちゃくちゃ冷えてしまうので、こんなんになります—–

手も、一日に何度も殺菌しますし、熱湯も扱いますので、
両手の親指の爪の脇には、これ、また元通りにくっつくのかと不安になるほどのひび割れ。
手袋をつけてできる仕事は、そうしているのですが、
先日は、速醸酒母に使う乳酸(75%)を素手で扱ったため、手の甲を思い切り
火傷してしまいました。血が滲んだ、ささくれだらけになり、
ゾンビの肌のような感じになりました。

かように、悲惨な現場ですが、酒母は素晴らしく面白いですね。
私は、飽きっぽいので、30日近くあるもろみは途中でしびれを切らしてしまいます。
私としては、2~3週間くらいでできる酒母が、性格的にも良いのかもと思っています。

さて、このような感じで、2週間前、「やまユ」などが入るのに合わせて、
私が酒母を担当させてもらっています。

20By(平成20醸造年度)、当蔵が若手で酒造りを始めた年は、麹を担当し、
昨年21Byは、もろみを担当しました。
今年の22Byは、念願の酒母をやることになりました。

当蔵は、6号酵母の発祥蔵でして、そういう意味では、
酒母は、すべての部署の中でも、もっとも神聖な部門です。
一層、酒が洗練されるよう、頑張らないとならないと思っています。


で、酒母の続きですね。
私がもっとも面白いと思うのは、
そのコンセプトが、もろみと、まったく逆だということです。

もろみは、米を適度に溶かす。溶かしすぎない。溶けすぎると酒は鈍重になります。
発酵を適度に抑える。発酵させすぎない。発酵しすぎると、荒っぽく雑味多い酒になります。
つまるところ、もろみは、発酵熱を抑えるために、冷却ができないとダメなんですね。

ところで、酒母は、確かにはじめは、相当冷やさなくてはなりません。
昨日説明した「打瀬」という時期からはじまる前半期は、それこそ相当冷やすわけです。
酒母室は、5~6℃でなくてはならない理由も、ここにありますが、
酒母の前半は、低温状態を維持しつつ、一方で、暖気樽(60℃以上の湯が入った筒)を用いて、
部分的な加温(全体的には冷えたまま)を行い、酵母を絶対に活性化させず、
米だけを溶かさなくてはならないわけです。

(仮に、糖分や養分が集積しないまま、酵母が増殖したら、弱々しい酵母が増えてしまいます。
もろみで、きちんとした発酵を遂行できなくなる恐れがあるからです)


さて、このように酒母では、まずは一旦、米を溶かしまくるわけですが、
次には、ようやく酵母を活性化させ、増殖させなくてはならない時期がやってきます。

しかし、低温での暖気操作によって、極限にまで米が溶けまくり、可能な限りの糖分が集積し、
相当な濃糖状態になった酒母の溶液は、
今や、酵母が、なかなか繁殖できない状況に様変わりしているのです。

糖分が多い—–つまり、濃糖状態というのは、微生物が繁殖しにくい状態です。
ジャムとかはちみつなんか、腐らないですが、あれは糖分が高いから、雑菌が増えない
(=つまり腐らない)状態になっているわけです。
つまり、浸透圧が高く、水分活性も極端に低いため、生物が存在しにくい状況に
なっているんですね。

このような、生物全般にとって、生存そのものが厳しいという濃糖状態で、
しかも、外気温が5~6℃と、かなり低いというのでは、
酵母が自力で増えることは、まずもって、不可能です。
ほっておいても、温度は上がらず、酵母は増えず、えんえんと休眠状態が続くだけでしょう。

このため、酒母では、もろみとまったく逆で、
いざ糖化が終了した後は、もはやそれ以上冷えないように、徹底的に保温し、
行火(あんか)とか、コンロとかを使って、強制的に外部から、ガンガン加温することで、
酵母を無理矢理に活発にし、増殖/発酵させなくてはならないのです。

もろみは、はじめから最後まで、(酒母に比べると)糖分があまりない状態です。
これは酵母にとっては居心地の良い状況ですから、勝手に増殖して、発酵します。
(ただし、糖が少なすぎても問題で、発酵が途中でストップしたりします。
そうなると、味わいが悪くなったり、最悪な場合は雑菌に汚染されてしまったりもします)

ということで、もろみをほっておくと、周囲が低温環境であっても、もろみは発酵熱により、
どんどん高温になります。相乗効果で発酵は加速し、
あっというまにアルコール度数が高くなって、もろみ期間がやたら短くなったり、
酵母が自らの造り出したアルコールで死んでしまいして、酒質は、重かったり、荒すぎたり、辛すぎたり、
雑味が多かったりして、良いものになりません。

そこで、良い酒を造ろうと思ったら、もろみは、なにがなんでも、中盤から後半にかけて、
ガンガン冷やさなくてはならないわけなのです。

ところが、酒母では、冷やすのははじめだけ。
酒母の溶液は、あまりにも糖分が濃く、酵母がたいへんなストレスを受けているので、
(+低温環境で小さなタンクでは、冷えすぎるので)
酒母は、もろみとは逆に、中盤に、どんどん暖めないといけません。
加温しないと、酒母では、酵母が増殖もできないし、発酵もできないのです。

こうした点が、もろみと、酒母の大きく異なる点で、鮮やかなコントラストが
あって、私が気に入っているところです。




酒母は、まさに幼年期とでもいうものでしょうか。
しっかり糖分を蓄積させ、環境をお膳立てした後は、酵母を、過保護に、のびのびと増やすのが役割です。

ところがもろみに行ったら、超スパルタ。「え、こんなの聞いてないっすよ!」
と酵母が、本気で叫ぶほど真逆。
まさに、社会人になって洗礼を受けた感じ。
生きるのって、こんなに厳しいの? 学生に戻りたい—–!
というようなイメージでしょうか。まさに。

酒母では、コンロを据え付けてもらって、最高温度17~18℃の環境を与えてもらったのに、
もろみでの最高温度は、高級酒だと、10℃近辺。
雑味を出さないよう、えんえんと拷問のような長期間の低温発酵を強いられます。

でも、そうすることによって、おいしい酒ができるわけなんですね。
となると、悲惨なもろみの環境に耐えられるような、大器晩成の酵母を育てるのが、
酒母の役割、とでも言えましょうか。

これからも、さらに勉強して、良い酒母の秘訣を探っていこうと思います。
では、また。