「雨後の月」特別純米とアルコール考

今年前半期に飲んだ、様々な日本酒の中でも、衝撃だったのは、この「雨後の月」特別純米。
このお酒、ここのお蔵さんのフツーの特純ではないんですね。

なにが特殊かというと、この酒、アルコールが13%前半。
なのに、まったく軽いとか薄いとかいう感覚を感じさせないんです。
一升瓶くらい飲んでも、なんとか翌日もちこたえそう?(無理か)


$蔵元駄文-雨後の月

昔、日本人の酔い方の実験で、アルコール14%以上の酒になると、
とたんに酔いやすくなるというような文献を見た気がします。

まあ、14%だろうが15%だろうが、どうでもいいことで、
それは低い方が酔わないに決まってるんですが、
私の場合は、13.5%程度表記のワインを一本以上空けても、あまり酔った事はないのですが、
14.5%以上のワインでは、翌日の午前中に沈没してしまったことがあります。

まあ、これも体調や食い合わせとかもろもろあるのでしょうから、
まあごくごく主観的な体験でしかないのですけど、
はっきりいって日本酒のアルコール度15~16%以上というのは、高すぎると思うのですが、
いかがでしょうか?
食中酒とか、晩酌酒とか言いながら、堂々とアルコール16%とかの酒を出されても
マッチョすぎないか? 君ロシア人? という気がしなくもない今日このごろです。
(うちの酒も—-ほとんど全て—-15.5%前後なのですが—-すみません)

話は戻りますが、
このアルコール度は、飲み続けるには不適当なうえ、
日本酒の表現しうる、総合的な美的バランスを崩していると思います。

各種公的コンテスト(全国新酒鑑評会など)に出品される大吟醸酒などに至ると、
ほとんどが17%後半~18%前半という高アルコール飲料となってしまってます。
この場合、何年も経ってこなれた醸造アルコールを使ったり、また酒の設計上
甘みが相当に強かったりするので、アルコールによる直接的な刺激は、かなり緩和されてはいます。
とはいえ、これも「利き酒」だから耐えうるというまでの話。
これらコンテスト用の酒が、まともに飲食に供せられるには難しいという、
その要因のひとつを造っているような気がしますが、どうでしょうか。

総じて、日本酒はワインやビールと比べると、口に入れた時、
アルコールの刺激が必ずどこかに感じられて、本来楽しむべき繊細な原料由来の成分や、
酸・甘みなどをかき消しているようなものが多いと思いますが、いかがでしょう。
実にもったいない。芸術点を下げているように思うのです。

かといって、日本酒は(特に米をよく磨くと)、ちょっと加水が多いだけで、
とたんに薄っぺらくなってしまう。
ボディ感をアルコールそのものに頼っているからです。

実は、昔は、流通段階や店舗にて、いろいろな日本酒を混ぜ合わせ、
適当に薄めて売っていたといいます。蔵の技術というより、店のブレンド技術や加水技術が
旨い酒を造っていた時代があるのです。これはこれで、ファンタスティックですね。
ということで、加水に足る、コシの強い酒が好まれました。つまり、硬水+生モトで造られた
灘伏見の酒が、もっとも素晴らしいと言われた所以のようです。

結局、昔の人は12~13%くらいの日本酒を飲んでいたと言われています。
いいですね~。飲んでみたいですね、例えば江戸時代の酒なんかを。

現在でも、酒がわかる人なら、コシの強い酒を、ガンと加水して、
さらにぬる燗にしたりとかでバランスをとることもできるでしょう。
当蔵の副杜氏の古関くんは、秋田の誇るお燗番なのでこういう加工をあらゆる酒にやりまくり、
飲みまくります。が、これは上級者。普通、しませんよね。私も滅多にしません—–。

ということで、現在の一般的な日本酒の輪郭を保ったまま、
アルコール分だけを低くするのは、至難の業なのです。

そして「雨後の月」特別純米 アルコール分13度バージョンは、
この難しいトライに見事成功しています。
No More Edo Era !! 相原酒造万歳! 最高!

で、私のところも、独自の手法で、低アルを造ってみています。
前述したように、あくまでも、
「現状の良質の日本酒のスタイルを維持したまま、ややアルコールを下げる」のが目的なので、
甘酸っぱい「酒母スタイル」(5~7%アルコールで発泡タイプ)ではありません。
あくまでも、酒の味がわかる酒客を対象にした酒です。
ただし、ここにご紹介した「雨後の月」特別純米の製法とは、違うスタイルで設計してまして、
成功確率34%。

今は私が出張中なので、鈴木杜氏以下、冷蔵庫で小仕込みをひいこら温度管理しています——
こんな造りの末期に—-こんなものを計画に入れてしまい、すまん、頑張れ!
うまくいったら、製造部みなで「雨後の月」と飲み比べてみるのが楽しみです。