共同醸造酒仕込み完了! & 木桶到着!!

11月15日、共同醸造酒が完成いたしました! 
例年のごとく、三段仕込のラストの一段「留」仕込み(日本酒の三段仕込は、順に「添」「仲」「留」といいます)のため、我々NEXT5はホスト蔵「白瀑」に全員集結。

酒質の肝である「麹造り」では皆で協力しあい、見事、まあまあの麹が完成!
そして、ここ大一番、留仕込の日。
「白瀑」山本氏の日頃の行いのわりに、超ラッキーな気候でございまして、例年よりも気温は寒め。なかなか幸先の良いスタートを切れそうでした。

蒸し立てのお米を冷やす「放冷機」で温度調整をするのは、
「一白水成」の渡辺康衛君。今回は酒母造り、麹造りも参加したうえ、仕込み水の提供までを
行ってくれまして、八面六臂の活躍となりました。
蔵元駄文-こうえいくん


米が運ばれてくるまで、なにか贅沢なことを考えているに違いない、櫂入れ担当、
「ゆきの美人」の小林忠彦氏。
蔵元駄文-小林さん

そして、私と「春霞」の栗林直章氏は米の投入係として、ぼんやりと活躍!!
蔵元駄文-仕込み

そして無事に仕込みは完了! 
なんとこの共同醸造酒のために、新たに山本氏が調達した温度調整可能なタンク、
サーマルタンクへの仕込みとなりました。
さて!!! あとのもろみコントロールは、ホスト蔵「白瀑」に一任。
“Shangli-La(シャングリラ)”=<理想郷>
という壮大な名前に負けないように素晴らしい酒にまとめあげて欲しいものです!

皆様、12/24の発売日を乞うご期待~~~~!!
(全国の「白瀑」の”主要”取扱店でご購入可能と思われます、多分……)

蔵元駄文-完成

そしてついに、「大安」の11月16日に、当蔵に木桶が届きました!
大阪のウッドワークさんに発注していた「木桶」でございます。
当蔵に木桶が復活するのは、いつ以来でしょうか? 母が子供のころは
まだかろうじてあったらしいのですが、正確にはわかりません。

昭和20~30年代、特に戦後からホーロータンクは爆発的に普及しました。
そして、たった10年くらいでぜんぶ入れ替わってしまったそうです。

はじめは、杜氏さんたちも、日本酒の仕込と貯蔵がホーロータンクになったことで、
酒質が変わってしまったことをたいへん心配したそうです。

ホーロータンクの酒は、木の香りがしないかわりに、エッジが効きすぎていたそうです。
総じて、堅くて渋くて、明らかに木桶・杉樽の酒とは「異質」と感じられたそうです。
このため、昔はホーロータンクの内部に杉材を貼付けたりもした蔵も少なくなかったそうです。

しかし、戦後から高度成長期にかけて、日本酒の生産量は爆発的に伸びました。
大量生産に向く「三増酒」も登場したことで仕込みサイズが、巨大化せざるを得ません。
木桶に戻る蔵はなく、短期間で木桶は、日本の酒蔵から消え失せてしまいました。

という歴史を経て、当蔵にも木桶が舞い戻ってまりました。
到着直後の写真をとったら、たまたまどういうわけが上から光が差していて、
下の一枚は、まさに「大安」的な写真になっておりました! めでたいですね~~。 

蔵元駄文-木桶

さて、なぜいまさら木桶? と聞かれることも多いのですが、昔、日本酒はこれで醸され、
これで貯蔵されておりましたので、私なんかは非常にロマンを感じるわけです。
上述した歴史も涙を誘います。

しかしながら、確かに、木桶は醸造的には不利なところが満載です。発酵管理は特に大変でリスキー。強力な断熱材の中で発酵させるようなもんですから、もろみの温度を下げるのがめちゃくちゃ大変(万一、酵母が走ったらと思うとぞっとします)。また、衛生面でも、ホーロータンクのような無菌の容れ物というわけにはいきません。

そういうわけで、秋田では、(私の知る限り)現在、ほかにどこの蔵も「木桶仕込み」をやっていない現状、いざというときの相談相手もおらず、正直、導入には若干躊躇するところもありました。

しかし。考えてみれば、曾祖父の五代目は、生涯、木桶で仕込んでおりました。
もちろん六号酵母にしろ80年前(昭和5年)に誕生というか世間に発見されたので、
これは木桶のもろみの中から採取されたわけでもあります。
そういう意味では、きっとうまくいかないわけはない—–
むしろ味わいとしては相性ぴったりなのでは、という淡い期待も最近は抱くようになっていました。
(香り系の酵母でない、きょうかい酵母のなかでも、特に一桁台、また10号、14号などで醸した酒は、ウッディなニュアンスと相性がいいような気がするのですが、どうでしょう)

ほかに、「酒質にどう影響するか?」と聞かれることも多いのですが、これは難しい。
造り手のウッドワークさん曰く、「木の繊維が微妙に空気を通し、まろやかに酸化させるため、味わいに一切とげとげしいところがない。さらに杉の成分のせいか使い始めた初期は甘いような感じがある。通常なら辛口に感じるところでも、何故かそうはならない不思議な味になる—–」ということでした。

ホーローに切り替わったときに、全国的にかなり酒質が変わったという証言も
あるのですから、香味の上でなんらかのはっきりした影響が出てもおかしくないですね。

私としては、木桶の導入については、杉の香りについては特に必要としておりません。
どちらかというと、味わいの面で個性的なものになることを期待しています。
(乳酸菌をはじめとする菌類が、ごく微妙に活動することで、
何か曰く言いがたい変化を生み出されるのではないかと、そこらへんを楽しみにしているのですが—)

もちろん、杉の香りも嫌いではありません。
例えばアロマテラピーのエッセンシャルオイルで言えば、ティートリー
とならびシダ-ウッドは気に入っております。

しかし、香りの変化という意味では、木桶はあまり期待できるものではないようです。
不思議なことに木桶で発酵させても、杉の香りはほとんど残らないようなんです。
実際、木桶仕込みの酒をよく飲むことがありますが、どれもとりたててウッディなニュアンスを強く感じたことはありません(使用歴によるのかもしないのですが)。
一般的には、樽酒のように杉の香をつけるには、すでに出来上がってる酒を杉樽に入れる必要があります。

さて話は戻りますが、今回、当蔵にいただきましたのは、吉野杉の木桶でございます。
木桶は未知な代物なので、まずは材料選定からすべて、プロにおまかせいたしました。
なお、最高級の吉野杉を使っていただきまして、たいへん光栄なことでございます。

ともあれ、ここ秋田も杉の大産地。秋田杉は、酒造用具の基本木材。
全国津々浦々の麹室、麹蓋などの原料になっております。
ですから我々も、いずれは秋田杉の木桶—-とも思うのですが、かなり大きな違いがあるんですって。
「吉野杉は秋田杉と比べて、繊維の走り方が違うので、アルコールが揮発しにくい。
どちらも水は通さないが、秋田杉は木目がもっと細かいなど、いろいろな特徴が
あって、結果的にアルコールを通してしまうので、桶には使われなかった」

とのことです。こういうわけで、酒造用具にはさかんに秋田杉が使われる一方、仕込みや貯蔵の桶には吉野杉が最上とされていたということです。
(まあ、いずれ必ず秋田杉でも木桶を造っていただきたいと思いますが—)

さて。木桶は、使えば使う程、様相が変化して来ます。時間が立つとともに、
さまざまな微生物、特に乳酸菌が棲み着くようになるでしょう。
そして、それが酒に独特な個性を与えます。
おそらく、仕込み年数が経った木桶ほど、菌叢が複雑になってゆくのでしょう。
ですから、扱い方を間違えると、酒が菌でおかしくなってしまうことも十分に考えられます。

しかし、木桶で造った酒で、出来の良いものは、
いわく言いがたい個性があり、どれ一つとして、まったく同じものはできないといいます。
これが私たちにとってのロマンです。

さて、この木桶、見れば見るほど、様々な先人達の試行錯誤が詰め込まれております。
蔵元駄文-木桶3
例えば、外側は白いのですが、中をのぞくと、赤い面が使われているのが
わかります。こちらのほうがよりアルコールを通さないということです。
精油成分も多いでしょうね。しかし、杉の精油は抗菌作用があるので、
これもまたいいのでしょう。

なお、仲良くしていただいております同業者(というか蒸留酒メーカー)さまで、
オーク(水楢)の樽を使われて仕込みをされている方がおりまして、その彼がおっしゃってられましたことには——、
「オークの樽はオフシーズンに、けっこう臭いがするっていうか雑菌繁殖しているっぽいけど、杉桶のほうは、使い込んだものでも、あんまりそんなことはない」
ということです。杉桶には、管理の仕方次第で、絶妙に良い菌叢ができるのかもしれません。
ともあれ私にとっては、いまだ、すべてがミステリーです。たいへん楽しみです。

蔵元駄文-木桶2

なお、このようなサイズの正統的なスタイルの木桶を造ることができるのは
いまやウッドワークさんのみ、ということです—-。こういう技術は誰かが残さなくてはなりませんね。
我々造り酒屋としては、桶や木の酒造用具を購入することでしか支援ができませんが、
なんとか様々な産業で、こうした日本の木の文化を復活させていきたいものですね。

秋田も、実はほったらかしの杉の木だらけです。秋田県全体が、花粉製造県となっているといっても過言ではありません(?)。
まあ、需要がないので、伐って売っても商売にならないのですよね。
昔、秋田の林業はものすごい大産業だったらしいですが、今や見る影もなし。
ほったらかしの杉の木だらけとなっております。

とはいえ最近は、秋田でも、この杉の木の良さを見直してもらうための、
いろいろな取り組みがはじまっています。秋田の若手デザイナーが立ち上げたプロジェクト、
“casane tsumugu” (かさね つむぐ)さんでは、
秋田杉を使ったプロダクトを提案しています。

http://casane-hito-tsumugu-mono.com

先日、グッドデザイン賞をいただいという、大館の名産工芸品である「まげわっぱ」の鏡。
“Wa Mirror” ですって。シンプルで美しく、とてもいいですね。

http://casane-hito-tsumugu-mono.com/info/information/1085/


どんどん木製品を使って、新たに杉の木をどんどん植えたいものです。
(二酸化炭素削減のためには、杉は「成長途中」の若木でなくてはなりません)
新しい苗を植えるためにも、昔ながらの杉材を見直して、消費してゆくことは、
たいへん良いことだと思います。

あ、そういえば、今年は木桶仕込みだけでなく、私たち「新政」なりに、
いろいろとバランスを考えて、貯蔵にも杉材を使った「樽酒」も提案してみたいと思っています。




ps. さてNEXT5の留仕込みの当日であった、11/15日。
当蔵の保有する6つの土蔵の蔵が晴れて文化財に登録になりました! 
同時に登録されたのは、那波家の那波紙店さまの店舗/家屋でございました。
思えば、当蔵が保有する土蔵の蔵のうち、半分の3つは、那波家から購入させて
いただいたものですから、これも何かの縁かもしれません。

これら歴史的な土蔵の蔵の保存のためもあり、本年度は、釜場と洗米場の移設工事を行っておりましたが、そちらも無事に完成し、すべてがうまく稼働しております!!
ではでは、ありがとうございました。

$蔵元駄文-感恩講