低精白純米85%、90%

今年は、低精白に悩まされた年でした。

昨年、85%純米がうまくできたので、今年は「普通酒」仕込みの相当数に、
こういった80~85%の低精白の酒をちりばめて、試行錯誤
行っていたわけです。
いわば当社の普通酒を、いずれは低精白の純米酒に変えるため、果てしなき戦いを繰り広げて
いました。

(低精白といっても酒造好適米の「あきた酒こまち」を使用しているので、
旧来の普通酒よりも、断然コストは高くつきます。
一般的に、普通酒や本醸造といった下のランクの酒に使われる、
「加工米」の価格は、秋田の場合、酒造好適米の半分くらいという爆安価格なんです。

*これは米所である秋田だから、ここまで安いというのもあります。
加工米といっても、他県ではもっと値が張るものですが、
それでもやっぱり、好適米と比べれば相当安いです)

こうして、85%純米の製造にかかりきりになったわけですが、
ところがこれが、あまりにも、
難しい!

まず、低精白は、毎回毎回、発酵経過が同じではく、安定した酒ができないです。
やや暖かくなってからの仕込みであることも、要因ですが、
低精白では、仕込みのちょっとしたミスが取り返しのつかない
事態に発展します。
薄いだの濃いだの、えぐいだのキレイだの、いつもいつも味も違うし、
問題なのは、粕歩合で、いつもばらばらで、
めちゃくちゃ少なかったり、突然大吟醸以上の粕が出たり。
もろみではできるだけ成分をそろえているつもりでも、
出来た酒が予想とかけ離れる場合が多いのです。

ピーキーすぎてコントロールができない! 
F1カーを運転しているような危うさ。
素晴らしい味わいの酒ができる一方、そうでもないのも多い。
異常に高い粕歩合の酒など、経営上話にならないくらい割の合わないもろみも頻発する—–

はっきりいって、「ただ造る」こそすら、難儀です。
そういう意味では、これに比べれば、大吟醸なんていうのは楽なものです。

低精白は、造るのが難しいだけでなく、
脂肪分、油脂が多く、搾り機も汚れるし—–。これで汚染された酒も頻発。
本年度、これら低精白のせいで、当蔵は、相当な損害を受けたのも事実です。

私も杜氏も、円形脱毛になるくらい悩んで、
麹の造りから、水の量やら、いろいろとトライしましたが、
まだ理解不能なことばかり。特に、油が多いなんていうのは、根本的に解決不可能?

結局、酒質があまりに安定しないことと、めまぐるしく変わる粕歩合&精製数量のため、
ほぼすべての低精白仕込は、「アル添」/「四段」で味をととのえなくてはならなくなりました
—–屈辱です。

難敵すぎました。
今年の当蔵の力量では、今年は、黒い米に、敵いませんでした。
我々が理想とする品質の低精白純米を、安定的に生産し、
それをもって、当蔵の普通酒のかわりとすることは、今年の我々の
力量では、不可能でした—–。
(おそらく、根本的に違う酒造りをしないと厳しいと思います)

思えば、
昔から「米は削れ」といわれていました。
削りさえすれば、いい酒が自動的にできるような言い方で。
先代、先々代とも「とにかく米は削れ」が当蔵のしきたりでした。
(吟醸黎明期に活躍した蔵なので、そういう方針だったのでしょう)

日本中で、何十年も、何百年も、一生懸命試行錯誤して、やっとたどり着いた結論が、
米は削った方が、酒は良くなる。
削らないとどうしても雑味多く、柄の悪い酒になる。
ということだったわけです。
これ以上なく、それを理解した一年間でした。

ともあれ、だからといって、それを鵜呑みにただ遵守していただけでは
進歩がない、と私は思うのです。


「85%純米」。
上記のように、すべてのもろみが理想通りにいったということはなかったのですが、
良く出来たもの、アル添が不要だったもろみもありました。
その中でも、杜氏が気に入った85%は、製品として
囲っております。

「90%純米」も、同様です。

当蔵が、すべての酒を、純米酒にするには、一層の勉強、一層の発想の飛躍が必要です。
ただ、遠くない未来に達成したい—-!
この85%、90%は、未来の、日本酒の純米時代に向けたひとつの
メルクマークであると思います—–。
おそらく、昨年同様、これら低精白系は、秋頃にはお目えするかと思います。